第11話 昔の知人勇者改め、くっころ女騎士…?

 町を出た。誰にも認知されず、人知れずただ人を救うだけ。それが、前神の定義したと思われる神としての在り方だったのだろう。

 だが、私はそうは思ってなかった。もっと自由に、土から人間を作り出してとか、大きいつららから滴ったものが人の形を得るとかそんな自由な感じ。お菓子と可愛いものたくさんを混ぜ合わせたら女の子ができるとか、すごく自由な世界を見られる。それが、私の思っていた神だった。


 <世界は残酷だ>


 そんなことないと思う。そう、決めたのはあくまでも前神なんだから。今のこの世界の神は私だ。私は力をつけてこの世界の仕組みを、作り替える!


「私は、世界が残酷なんてそんなバッド見たくないハッピーエンド厨だからぁ!」


 町はずれの街道で一人で叫んだところで、聞こえるのは草木の音と風に乗って聞こえる村からの悲鳴。匂いは、緑豊かなものではなく、だんだんと濃厚になっていく煙と何かが焼ける香り。


(聖女の時に何度も現場には立ち会ったけど、老後は助言しかしてなかったからきっとまた耐性は無くなってるんだろうな…)


 残酷な描写というのは、実に何度見ても慣れない。数回見て慣れた気持ちになっても、そこから少しでも間が開いた時の自分の奢りに気づかされて二重にダメージが来る。だから、今回はすでに覚悟している。狼煙の村についても、冷静に。



 ――前神の命令なんかじゃない、この世界の理なんかじゃない、私は私の為に村を救う。



「いやぁああああああああああ、触れるなぁあああああああ」


「ッ!?」


 女性の悲鳴が聞こえ、村までまだまだ遠いのに足が勝手に走り出した。息切れがひどい。こんなにも焦っているのに、村について冷静に対処なんてできない。わかっているのに、足が止まらない。


「ハァハァッ…くそっ…着いた…」


 村の近くの木に身を隠し、村を肉眼で覗き見る。下手に能力で村を見れば、また魔獣と目が合いこちらの目が潰される。今回は回復役のナタリィがいない分、捕まってそこで殺されるのがオチだ。

 攻撃系のスキルが自分にないかをステータスで確認する。走ってきた分、スタミナステータスが減ってはいるが、上限値が上がっていた。脚力も上がっている。安心したが、神のかっこ良さそうな何かパァッと能力をかっこよく展開できないか……必死に探す。必死な方が、自分を追い込んだ方が、火事場の馬鹿力というもので発動したりしないかと…


 魔獣が女性を引きずって村の入り口に歩いてきた。

 黒い長髪の美人を村の目印となる旗を立てる棒に叩きつけられる。女性は彼シャツのような体にあっていない様なボロボロヨレヨレの服。必死に抱きしめて胸を隠しているのは見覚えのある、聖剣らきしもの。そして、申し訳ばかりに腰に引っ掛かっているのは、魔法石のついた大聖堂教皇特別製の耐魔の鎧。


「くそ、やめろ!俺は、勇者だぞ!」

「ユウシャ、、、コンナムラ、、、ダボダボノオトコノフク、、、キテルワケ、、、ナイ、、、」

「違う!本当に俺は、勇者で男だったんだ!朝起きるまでは男だったんだ!」

「ハハハ、、、オカサレルマエノ、、、アガキ、、、ワルアガキ、、、オモシロイ」

「お前らに犯されるくらいなら、死ぬ!殺せ!放せ!自害させろ!放せ――!」


(おっ、生くっころを聞けた、ラッキー!)


 美人の身に着けているもの、発言はどれも覚えのあるものばかりだ。ふと、頭をよぎったのは知り合いで勇者。私と同じで異世界転生者。だが、途中で世界を何度も救い、魔界と和平を結んだことにより敵という明確な敵が居なくなったため隠居すると袂を分かった。


(えぇ…いやいや、そんなまさか、あの"勇者サマ"がくっころ女騎士に……?)


 ってか、勇者で男で朝起きるまでは男だったってことは、私と同じ現象……

 可能性が0%ではない。どちらにせよ、美人で可愛く気が強く美人の処女をよくわからない魔獣に取られるよりも自分で奪いたい。

 いや待て、くっころ女騎士はおいしいがそれよりも魔獣を倒す方法だ。

 あの自称勇者女騎士らしき美人を颯爽と助けて恩を売って、体で払ってもらおうではないか。


「この感覚…このいやらしい感じ……聖女!アリア!!いるんだろ!早く俺のこの変な呪いを解け!アリア!居るんだろアリアクソババァ!」

「ナニ、、、ナカマカ、、、」


(いやぁあああああ、許さねぇアイツやっぱり思ってる勇者で間違いないわぁ!)


 勇者女騎士が私を感じ取ったのか、叫んだおかげで魔獣がこちら側にどんどん集まってきた。


「アリア!お前いつまで待たせるんだ!早くこの変な呪いをお前なら解けるだろ!聖女長サマよぉ!!」


(計画が、ってか、やっぱりアイツ抱きたくない嫌だあんなガサツなやつ抱きたくない嫌だぁー助けたいという気持ちがちょっと薄れそうなのに…助けないとなのがすっごいもぉおおおおおおお)


「サガセ、、、セイジョ、、、メンドウダ、、、オンナミツケタラ、、、クッテコロセ!!!」


 魔獣が村から出て来て私の隠れている場所まで近づいてくる。



 俺は――、覚悟を決めた。



 自称勇者は既に私が居ることを理解し、態勢を立て直しいつでも能力バフがかかってもいいように聖剣を構えている。こういうところは有難い。どれだけ口が悪かろうと、彼は勇者にとても憧れ本物の勇者となった異世界転生者。だからこそ、とてもかっこいい剣技とそれを完璧に行うための努力を行ってきた。彼こと、彼女の瞳はまさに飢えた獣。修羅が宿っている。目の前の自分よりも体格が大きい魔獣などに一切劣ることのない、むしろ凌駕するほどの気迫が遠くから見ている私にも伝わり手が震える。

 村の中にいる人たちはもっとこの圧を感じ取っているに違いない。彼は、一度敵を見つけると確実に息の根が止まるか確認し終えるまですべてをバラバラに刻む。敵にすると一番怖いが、味方だと右に出るものの居ない狂戦士勇者だ。

 私が叫ぶ、この叫ぶ言葉には、遠くにいる彼女の心の奥底から伝わってくる意思が反映される。


「勇者<カガ>の願い、賜った!神、アリアの名において汝の願いを叶える!」


 私の体が一瞬光り、光は彼女カガに当たり光り輝き怪我を治し服を彼女の体に沿わせ仕立て直され動きやすい姿となる。


「願いが一つ叶っていない、なんで?! なんで…ごめん、カガ!もう一度…クソ、願いが…何が足りない、なんで、どうして…」


 どうして、どうして性別が治らない、彼の願いの中にしっかりあった

 <敵の殲滅できる体力回復><能力向上><性別修繕><武装調整強化>

 明確だからこそ、叶えやすいそう思ったのに、性別だけ…どうして…

 訳が分からなくなり、私は膝をついて、魔獣に囲まれる。


「マズソウナニオイ、、、デモ、、、タベタラ、、、ツヨクナレソウ、、、」


(神になったというのに、願いが満足に叶えられない…どうして…どうして…)


「アリア!!狼狽えんな!戦えれば問題ない!」


 勇者は私のことを責めもせず、聖剣抜刀、凛々しい姿で魔獣へ切りかかり、カガの目の前に居た魔獣の首も四肢も地面に落ち、私を囲っていた魔獣の体はすべてバラバラになっていた。


 男に戻れていない点以外に問題が無いのか、カガは気にも止めていないのか、ずっと口角は上がりこの上なく楽しそうに舞っている。


 速度が速く、昔の殴り切り落としていたというよりも速度で近づき舞い死角に回り込み切り落としているに近い戦闘スタイルへ変化している。


(これが、勇者……人々を救済する者…悪しきを断つもの……)


「クッ…アリアッッ!!」


 魔獣のボスとみられる、私が聖堂から見たときに瞳を潰してきた特殊魔獣と戦っているカガから呼ばれる。

 立ち上がり、魔獣の屍を超え、村へ入り怯える村人もよそに少しでも早くカガの元へと走っていく。鼻、口に入る臭いは強烈だ。血と焼けた何かの煙、そして、特殊魔獣から放たれるこの世界に来てからは嗅いだこともない謎の臭い…とてつもない違和感……

 目の前に来てみると、人がたくさん埋め込まれているような、グロテスクな姿をしている。そして、中からは、呻き悲鳴恐怖の声が聞こえる。人を生きたまま、喰らったのだ。そして、腹の中で消化しきられず、まだ命がわずかに残ってしまっている…


 こんな生き地獄、救わねば……



<―クエストが発生しました―>

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