第9話 使命は変わらない
「アリア、ごめんなさい、男用のモノはやっぱりなくって…」
聖堂に急いで戻り、男になった自分が着られそうな衣服を急いで探すナタリィと私こと俺、アリア。
世界を覗き見る力を使い、燃えた町を少し垣間見たが、そこには和平を結んだはずの魔獣が人々を襲っていた。そして、怯える住人と闘う魔人の姿。
ひと際でかい魔獣と目があった瞬間、弾き飛ばされ左目が一度潰れ、それ以降もう片目で再度見ようとしたが叶わなかった。ナタリィのミルクを飲み左目を再生させるもそれ以降、世界を覗き見ることができなくなった。
住人を守る魔人が生きている間に村へ到達しないと、きっとあの住人たちは殺されてしまう。急がねばならない。
「仕方ないよ、男性の居たときなんて相当昔だし」
「でも、そのベッドのシーツ纏っただけなんて…その…股が危うくて…」
「あ…き、気を付ける。ぶらぶらしてるの抑えたいけどそれもないか…女物さっき履いたけど、ポロっと出ちゃったし…」
女性もの下着を履いて男のモノを隠そうとしたが、モノが良い息子なのかポロっと出たときにナタリィが少し吹いて笑ってしまうほど、面白い状態だった。もう、男の姿で女性下着を履くのはしばらくやめよう。あのナタリィの笑った可愛い姿を思い出して勃ってしまいそうだから。
「急がないといけないし、山を下りれば町があるからそこで服も揃えるよ」
何とかローブを纏ってみたものの、身長が190cm近くになっていた俺は、現代なら露出狂で通報されそうなただ布を被っただけの姿で旅に出ようとしていた。
膝よりも上で、太ももがちらちらがみえており、靴もサイズがないため、近くの町までは裸足で行動することになった。
「ごめんなさい、私も向こうの町を助けてと願ったけど願いが至らなかったせいで貴女の能力が使えなくって……人を救う聖女として私は…」
エルフ村の時点で、狼煙の上がっている町に向かって手を伸ばして原因索敵解決せよと、神っぽく力を込めてみたが全く、うんともすんとも言わなかった。
「そんなことない。それよりも、俺が問題だ。自分が神になったと浮かれたのに能力を把握しきれてないのが駄目だったんだ。神失格だよ…」
「そんなことない!私たちの村を、直してくれた…神よ、貴女の力は、賢者でもできない。確かにそれを超えた力だったわ!だからお願い…あの町を救って…」
ふるふると震える肩を抱きしめ、ナタリィを宥める。
自分の浮かれていた姿を後悔しても遅い。だからこそ、自分の力を改めて把握してうまく使わねばならない。浮かれてハーレムヤリたい放題旅とか思ってたが、それもしつつしっかり世界を救わねばならない。
神として未熟な俺の力が及ばなかったのか、それとも、神が直接人・魔の問題に手を出してバランスを壊すことはできないのか。確かに、神が簡単に杖を振るだけですべてが解決するのであれば、勇者も戦もなく平和な世界が出来上がっているはずだ。魔王も魔物もすべて平和なはず。ギミックを、仕組みを、改めて見直す時間が欲しいが、それよりも町を救う方が先だ。
「前は貴女は聖女として行ったけど、今回は神として行くの?」
「うーん、神って言って信じてもらえるかわからないし、どこまで能力を自分が力を願いとかなく発揮できるのかわからないけど、神と名乗ってくよ。ここに、私を神と信仰してくれるナタリィがいるからね」
「アリア、どうか、怪我せず無事に帰ってきて」
寂しそうな少し潤っている瞳のナタリィ。俺はまた、ナタリィを聖堂に置いて旅に出てしまう。前の聖女時代に続き、神になっても旅は続く。町を、人を、この世界を救わねばならない。そう、使命感が勝手に動いているからだ。
つらい思いをさせてしまう。だが、行かねばならない。
「大丈夫、たまに帰ってくる。今度は、少し間隔を短くしてみるよ」
「本当?でも、神の救いを待っている人は世界中きっとどこにでもいらっしゃるわ。だから、その人たちを優先して…大丈夫だから…」
「私の、可愛く愛しいナタリィ…大丈夫帰ってくる。少なくともこの男の体の内に一度は帰ってくる。そうしたら、またしよう…それまでナタリィは禁欲生活になってしまうかもね」
顔を赤らめるナタリィ。だが、自分も大概顔が赤くなってしまった。
自分で言った言葉で恥ずかしくなる。つらい。でも、言いたかった。後悔はない……
「待ってるわ、私の神様…主神アリア様。どうか、お気をつけて」
「神の加護があらんことを…って、私、じゃなくて俺が神か」
そっと口づけをして、足早に聖堂を出る。
修道女たちに誰だと振り返られながらも、それを気にしている場合じゃない。
衣服を整え、あの町を救わねばならない。
この世界の神として、最善を尽くさねばならない。
それに、きっと、あの町の狼煙が上がっている場所では救われたいという願いと思いを強く持っている人物がいるはず。その人に会えば神のスキルは使える。
「神として、世界もう一度救っちゃいますか」
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