十月二十六日④ 藤行幸恵
「あの術の範囲内にいる限り、敵味方問わず、あらゆる攻撃が主任に命中します」
ミクが、応接室のソファに身体を沈ませて事もなげに言った。御札の灰を片付け、インカムをテーブルに置く。
あらゆる攻撃、と幸恵が口の中で繰り返す。先程までずっと付きまとっていた蟲が、今は一匹残らず見当たらなかった。
あれも、太一が引き受けてくれたらしい。
「跳ね返したり無効化したり、避けたりはできません。ただ受け止めるしかないです。主任の体力が持つ限り。助太刀はできません。こっちの攻撃も命中しちゃうんで」
隣の部屋からは南田の怒号と激しく物がぶつかる音が聞こえてきている。
苛烈な攻撃を、たった一人で受け続けるというのか。
「標的を確実に足止めするためには、これが一番なんす。大丈夫です。あの術にハメられたが最後、相手はジワジワと消耗させられて、弱ったところをウチらに捕まる。主任は、今は現場から退かれましたけど、あの術の厄介さから昔は“死神”とまで呼ばれてたらしいすから」
大丈夫と言われても、幸恵には不安だった。
どれだけ太一の術が凄かろうと、要はただの持久戦だ。
応援が到着するまで、果たして持つのだろうか。
「あの甲冑と盾には、強度を上げる術が施されてます。ケンジももう時期到着する予定になってます」
ケンジというのは、ミクの夫だとのことだ。
その人に早く来てほしかった。聞くところによると、とても強い術を使える人物らしい。
早く、終わらせて。
幸恵は両手を堅く握り、待つことしかできなかった。こうしている間も、南田が吠える声は続いている。
不意に、ミクの持つスマホに着信が来た。
「……は!? 何でこんな時にさあ! ……それで、今どこにいんのよ!?」
大声を出されて幸恵の身体はびくりと跳ねる。
立ち上がったミクは、幸恵をチラリと見た後、広間へ続く扉に顔を向ける。
通話を切って大きく舌打ちをすると、車の鍵を掴んだ。
「ちょっとアクシデントが起きました。ウチが戻るまで、ここから動かないでください。ここにいるのが、一番安全ですから」
早口で言うと、インカムを手に取る。そこでまたしてもミクのスマホが震えた。
「今度は何だよ!?」
悪態をついて通話を始めたミクは、ピタリと動きを止めた。
「……何で、もっと早く教えてくんないの……ダメなヤツじゃん……」
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