十月三日② 藤行幸恵
菜帆は、津久野家でかくまってもらうことになった。
幸恵は娘に南田のことを話すことができず――実の父が貴女を呪い殺そうとしているなんてどうして言えるだろう――自分が
津久野家は強力な魔除けと目隠しの術が何重にも張られているらしいので、安心して菜帆を預けることができた。
幸恵は太一の会社が所有するアパートに向かった。
津久野家を出る前に、流華に指輪を返した。
鈍い銀色をしていた指輪は、一晩で真っ黒になってしまっていた。
流華はそれを受け取ると、長い指でひと撫でした。
途端に指輪は元の色に戻った。
「この指輪が、蟲を止めていました。しばらくしたらまた湧いてきちゃうと思います。ホントはまだ持っていてほしいんだけど……」
今の幸恵には、そういう呪いがかけられているのだという。陰険な南田らしい術だと幸恵は思った。
流華は、心配そうな顔で太一の方を見た。
「大丈夫。あとはこっちで何とかするから」
あまり納得していない顔の流華に別れを告げて、幸恵は車に乗り込んだ。
幸恵は正直、流華についてきてほしい気持ちでいっぱいだった。昨日のあの鮮やかな力で、守ってほしい。
未練がましく後ろを振り返る幸恵に、運転席の太一が静かに声をかけた。
「流華は、実を言うと、弊社の精鋭ですら太刀打ちできないくらい強い能力があります。でも、やはり素人なんです。目先の怪異を祓うことはできても、理性を抑えられなくなった人間がしでかすことへの対処には慣れていません」
幸恵はハッとした。娘と年の変わらない女の子に、何もかもを依存したくなっている自分が猛烈に恥ずかしくなった。
「あの娘自身の能力も未知数な部分が大きい。危ないことに、なるべく関わってほしくないんです」
「……もっとシンプルな話なんじゃないですか。親として、子供を危険な目に遭わせたくないっていう」
「そうですね。法律的にはもう成人しているけど、やっぱりまだまだ心配で」
太一は優しく笑った。
俯いた幸恵の足先に、早くも蟲が湧きつつあった。
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