老婆と贈り物

「あんたかい? 報告にあったのは?!」

 中央に書斎机と書斎椅子が一つずつあるだけの、何もかもが白で統一された部屋。

 美紅さんに促され、そこに入るや否や、怒鳴る様に尋ねられた。

「え? あ、あの……」

 白髪を肩で切り揃え、白いフード付きのローブの様なものを纏った上品そうな顔立ちの老婆が、白い書斎机の前に姿勢良く立っていた。

「平凡だねぇ!」

 老婆のその言葉に美紅はクスッと笑い、それを横目に俺は罰が悪そうに頭を掻いた。

「ほらっ! 受け取りな!」

 老婆が懐から白い小箱を取り出し、それを突き付けてくる。

 どうしたらいいのかと美紅さんに視線を移すと、楽しそうにウインクで返された。

「ほらっ! さっさとしな!」

 老婆は小箱を無理やり俺に押し付けると、そのまま腕を組んで仁王立ちする。

「あ、あの、これは?」

「開ければわかるよ!」

 老婆の突き放すような言葉を受け、渋々と小箱を開けた。

「これは……6?」

 中には見覚えのある銀色のペンダントが入っていた。

 それを取り出すと目の前にぶら下げて眺める。

「これであんたも、〈6³〉の一員だよ!」

「え? 一員? え?」

 いきなりの展開に、目を丸くしていると。

「失くすんじゃないよ!」

 老婆はお構いなしの様子で空になった小箱を俺の手から引ったくり、すぐに懐に仕舞った。

「あ、え? あの……しっくす、きゅーぶ、って?」

「隣の部屋で説明を受けな! それから美紅はこっちにおいで!」

 老婆はそう告げながら書斎机を周り、白い書斎椅子に腰掛けた。

「は、はあ」

 俺は老婆の傍へと向かう美紅に視線を向けながら、ペンダントを片手に部屋を出た。

「――……さて、美紅? あの若造なのかい?」

 老婆はドアが閉まるのを確認すると、美紅に向き直り、声のトーンを落として切り出した。

「はい、私は間違いないと思います」

「そうかい。たった一人のあんな若造だったとはねぇ」

 美紅の言葉に老婆は両腕を組んで背凭れに深々と背を預け、白い天井を仰いだ。

「はい。この数年の間に起きていた一連の影消滅事件。その真相は、彼です」

「ふむ。そうかい。わかった! 詳しく調べてみようじゃないか!」

 顔を下ろした老婆は、鋭い視線で美紅の瞳をしばらく見据えた後、そう答えた。

「よろしくお願いします!」

 美紅は一礼すると、部屋のドアへと向かった。

「そうだ! 美紅!」

 老婆はドアノブに手を掛けた美紅を呼び止めると。

「何度も言ってることだけど、施設内は制服着用だよ!」

 右の人差し指を立てて振りながら、老婆はそう咎めた。

「え~? 任務中だけでいいでしょ~?」

「え~? じゃないっ! いいわけないっ!」

 先程までの緊張感を吹き飛ばすように、ドアに凭れ掛かってだだをこね出す美紅を老婆は一蹴した。

「もう……はいはい、相変わらず頑固なお婆さんだこと」

 美紅がドアを開けながらそう呟くと。

「何か言ったかい?」

「失礼しました~」

 老婆のドスの利いた言葉を無視して、美紅はそそくさと部屋を出ていった。

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