第13話 後輩との波瀾の初デート

唯と日南の電撃訪問からの次の日、いつもより二時間早く起きた司は頭を悩ませていた。


「うわぁぁぁ!今思ったけど俺今日初めて女の子とデートするんじゃん!!けどこれってデートなのか?けど二人きりで買い物するなんて初めてなんですけどぉぉぉぉ!」


司の悲痛な叫びが、部屋の中に木霊する。

現在の時刻は午前八時。

朝起きることのできない司がなぜ休日にこんな時間帯に起きれたかというと、単純に日南とのデートに緊張しすぎて寝れなかっただけである。


「とりあえず顔洗って、飯食うか」


司は息を大きく吸って心を落ち着けると、洗面所へと向かい顔を洗いに行った。

鏡で司の顔を確認すると目元にうっすらと隈ができていた。


「こんな顔してたら心配するだろうな日南…」

司は己の顔に冷水をこれでもかと浴びさせると、豪快にタオルで顔を拭き朝ごはんの支度を始めた。


「いつもは食パンをトーストしてるだけだけど、今日ばっかりはちゃんと作っておくか…」


数十分キッチンで料理をしていると、きれいなベーコンエッグができていた。

それをインスタントのコーンスープで食べると、一度部屋に向かいまた洗面台に向かう。


「思ったけど俺、女子と一緒に過ごした時の服装部屋着と制服しかねぇ…」

司はファッションセンスが自分にないことを理解していたため、今日着る服に迷っていた。


「一応唯が選んでくれた服があるけど…イケメンしか着ることを許されていない服装だからな…」

その服装とは白のインナーに黒のジャケット、黒のスキニーと陽キャコーデだった。


「俺に似合うかな…一応眼鏡はとるし、髪も多少は整えるけどさ」

流石の超シスコンの司でも唯にすすめられた陽キャコーデに若干のためらいをみせる。



悩むこと数十分、司は結局唯の陽キャコーデを斬ることにして、集合時間の三十分前に家を出た。

「忘れ物はないよなっと…財布の中身も確認してっと…ま、こんくらいあればいいだろ」


途中毎度のことながら近所のおばあちゃんに会い「おやおや彼女とデートかい?かっこいいねー」と軽い冗談を言われながら、約束のデパートの近くの駅に向かった。



約束の10時まであと十五分、司は駅の付近の壁にもたれかかりながら、日南を待っていた。


(結構早く着いたな…よくある「今来たところだよ」ってちゃんと言わなきゃだよな!)


司は昨晩必死にネットで調べた、デートの時に気を付けることを脳内で復習しながら、日南の到着を待った。それゆえ背後から近づいてくる少女の気配に気づくことができなかった。


【あなた司くん?】

聞き覚えしかないその声が背後から聞こえてきた。司はとっさに振り返ろうとしたのを必死にこらえて、脳内でシュミレーションを行っていた。


(どうしてここに西園寺さんが!?俺何気に雰囲気違うと思うし、背後から声を掛けられたから、多分後ろ姿だけで判断されたよね!?どうして!?どうするのが正解なんだ!)


司の必死の熟考も虚しく、次に司に投げられた言葉で儚く砕け散る。

「遅くなりました先輩!」

(日南!?どうしてこのタイミングで来たんだ!絶対西園寺さんに気づかれた…)


「やっぱり、あなたは司くんだったん、ですね?」

西園寺は日南にもわかるようにか、拙い日本語で司に再度話しかける。


その言葉でやっと気づいた日南は、司の後ろにいる銀髪美少女を睨む。

「つ・か・さ先輩?この美少女は誰ですか?」


まさに鬼のように司に問い詰める日南に、司は沈黙を破る。

「この少女は西園寺抹白さん。俺の通っている黎明学園の転校生で、ロシア人と日本人のハーフだ。」


司は西園寺財閥の令嬢であることをあえて伏せ、日南に状況の説明を行う。

「そうなんですね~。私とので他の女を誘うなんていい度胸してますね先輩。」


日南の『デート』の単語になぜか反応した抹白はあわてて司に確認をとる。

【司くんデートって本当?もしかしてこの子彼女?私ってもしかしてお邪魔した?】


複数の質問を一度に投げかけられた司はたじろいでしまう。

【え、えっと、デートなのは本当で、でもこの子は彼女じゃないよ!】

何度も言葉に詰まりながらも、抹白に今の状況を説明した。


【そうだったんですね!それならいいです!私もご一緒しても問題ありませんよね?】


抹白は司に爆弾を投げかける。

(どうしてご一緒する必要があるんだよぉぉぉぉ!)

【えっとそれは…】


司がどう対応するか悩んでいると、先ほどから蚊帳の外だった今日の主役は疑問を司に投げかける。


「いったい何の話を二人はしてるんですか?それに司先輩英語じゃない別のしてますし」


しまったと司は思う。

唯や日南は、司がロシア語を勉強していると知らなかったのだ。

とっさの出来事だったのですっかり忘れてしまっていた。


「俺がさっき話してたのはロシア語で、なんかご一緒してもいいですかだって」


日南は金の髪を指先で遊ばせながら、しばらく考え込む。

(またやっちゃったよ!どうしてご一緒すること言っちゃったんだよ!!これじゃ俺最低なやつみたいじゃん!)


司は日南になんて弁明しようかと考えを巡らせていると、日南が口を開いた。

「なるほど…いいですよ」

「へ?」


司は必死にこの状況を打開する策を考えていたため、日南が放った言葉をすぐ理解することができなかった。


「だから、一緒にしてもいいって言ったんですよ!」


さっきも聞こえたけど、やっぱりこれ『デート』なんだなと思った司は、日南に理由を尋ねる。


「俺が言うのもなんだけどさ、最初は二人っきりってことだったじゃん?三人になってもいいの?」

「別にいいですよ、ちょっと二人で話し合いたいのですけどね」


話し合いという単語に一瞬恐怖を覚えた司だったが、そのことを抹白に伝える。

【ご一緒してもいいだってさ、けど二人で話し合いたいことがあるらしい】

【よかったです!私もこの方と話したいことがいくつかあるので、そこはご心配なさらずに。】


嫌な予感しかしないが、どうやらうまくいきそうだ。

二人が司から少し離れ、密談している様子を眺めながら司は今からのデートに対する考えを再び巡らせるのだった。

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