第9話 幼馴染の過去

〈水菜side—〉

今日も司に昼食の誘いを断られた私は自分の教室に戻っていた。

(どうしてたくさんの人だかりがうちのクラスに集まっているの?)

教室が見える所に着いた私は教室の前にたくさんの人だかりがいるのが分かりました。

「蓮見さんよっ!」

「こんにちは坂本君」

司の仲のいい友達に声を掛けられました。珍しいです。

「この騒ぎ気になる?」

「えぇ、まぁ。」

「さっきさ、司が教室に入ってきて、転校生を連れ出したの!」

「え?」

司は私にこう言ったはずです。

「あ、すまん水菜。俺今から職員室に用事あったんだった。今日は無理そうだ。」

職員室に用事があるのになぜ教室に?私が考えを巡らせていると…

「そういえば今日司眼鏡してなかったよね」

「え?確かにそうですが…」

そういえば今日の司は眼鏡をつけていませんでしたね。


「あいつ昔は眼鏡つけてなかったんだろ?」

「そうですけど…」

「じゃあどうしてわざわざ?あいつ目悪いわけじゃないし」

「何が言いたいんですか?」

水菜はもったいぶった言い方をする坂本君にすこし苛立ちを覚えてしまう。

「そんなに怒らないでくれよ、せっかくの美人さんが台無しだぜ?」

「つまらない御託はいいですから、さっさと教えてください。」

「俺の考えはこうだ、司は。」

「—っ!」

「何か心当たりがあるのか?」

「えぇまぁ…」

「とりあえず屋上に向かってみてくれ。」

「はい?いいですが…」

突然の言葉に疑問を浮かべましたが、とりあえず屋上に向かってみることにした。


屋上へと続く階段を上っていくと楽しそうな男女の声が水菜の耳に届く。

屋上へと繋がる扉を開くと、そこには今までに見たことがないくらい笑顔の司と、とびっきりの可愛い笑顔を浮かべる抹白がいた。


〈中学生の頃の水菜の記憶—〉

私には小学校からの幼馴染がいる。

その人はかっこよくて、優しくて、勉強もできて、困ったときは必ず助けてくれる、まるで『ヒーロー』のような人


中学の二年の終わりごろ、彼は学校に来なくなった。



私は自分でも言うのもなんだがかなりモテていた。人よりも顔は整っていると自覚はしているし、日ごろのケアに手を抜いたこともなかった。だからそれなりの数の男子からの告白を受けていたけれど、当然といった考えすら私の中にはあった。



「好きです蓮見さん!僕と付き合ってください!!」

「ごめんなさい。私には好きな人がいるので…」

「それじゃあ、友達からでも!」

「本当にごめんなさい。」

今月に入って何度目かもわからない告白を放課後に受ける。一度も話したことのない男子だった。

別に嫌ではなかった。他人の想いを無下にすることは私にはできない。

だから、きっちりとした想いにはそれ相応の態度で断っていた。

(私には好きな人がいるって、ずっと言ってるんだけどな…)


そう。私には好きな人がいる。小学校からの幼馴染で、唯一の男子の友達だ。

今に思えば、この私の中の彼への想いを自覚してからだっただろうか、彼への態度が素っ気なくなってしまったのは…



今日も私は男子から放課後の校舎裏に呼び出されていた。

呼び出された場所に向かうと、いかにもチャラついていますといった大柄な男がいた。私はその男を学校の噂で知っていた。サッカー部のエースで成績優秀ではあるが、女性絡みの黒い噂が絶えない男だと。正直苦手なタイプの男性だ。


「お前、俺の女になれよ?」

「は?」

思わずそんな汚い言葉が私の口から出てしまった。そんな言葉を吐いた私自身に驚いてしまいました。

「だ・か・ら、俺の女になれって」

「すみません、私には好きな人がいるので――」

「関係ないな。」

大柄なチャラついた男は私の言葉を遮り、驚きの言葉を吐きつける。

関係ないですって??一体この人は何を言っているんでしょか?


「すみません、言っている意味が分からないのですが…」

「分からなくていいよ、お前が俺の女に相応しいから俺の女になるんだ。」

本当に言っている意味が分かりません。この人中心に世界が回っているとでも言いたいのでしょうか?

「すみません、お断りさせていただきます。」

もともと私は男性が苦手でした。今まで平然を装っていた私ですが、この男からあふれ出る、禍々しいオーラを感じてしまい、私はその場から立ち去ろうとしました。が…

「どこ行ってんだ?」

「っ!」

男は私の手を掴み、力づくで引き寄せてきます。

「や、やめてください!」

私はあまりの恐怖に怖気づきそうになりましたが、力いっぱいの声で叫びました。

「いい声を出すじゃないか?いいぞ!それでこそ俺の女に相応しい!」

あまりの恐ろしさに私は諦めそうになりましたが、願望を込めて私は願いました。ご都合主義と言われてもいい。都合のいい女だと言われてもいい。

だけど――、私は声に出して呼びます。


私が大好きな人の名前を。

私の幼馴染の名前を。

私の、私だけの『ヒーロー』の名前を。

「助けて…司…」


そんな私の願いも虚しく、彼に届くことなく、男は笑いだしました。

「その男が例の幼馴染か?確かに顔はイケているかもしれないが、あんなヒョロっちい体で何ができるんだ?」

「できるさ」

「「っ!!」」

あの堂々とした言い様、私が困っているときは必ず現れてくれる。

綺麗な黒髪が風に靡かれ、颯爽と司は水菜の元にやってきた。

まるでその様子は『ヒーロー』のようだった。


「俺の幼馴染を離してくれないか?嫌がっているみたいなんだ」

司はわざと男を挑発をするような口調で言葉を放つ。

「お前に言われる筋合いはない。別にこの女の彼氏ではないだろう?だろ?」

ただの幼馴染…その言葉は私の心に深く刺さった気がしましたが、彼はお構いなしといった様子でした。

「俺の幼馴染を女って呼び方はやめてくれ。お前みたいなやつに言われると反吐が出る」

「ふざけるなよ!」


男は司を思いっきり殴りつけようとしました。

何も知らない人がみたら、ヒョロヒョロな男に勝ち目はない。そう思うでしょう。けれど彼は私のじゃありません。


「温いんだよ。」

「ッ!」

司は男の打撃を受け流し、思いっきり男の体を投げつける。

「ぐ…!」

男は苦しそうな声を上げましたが、司は容赦なく次の制裁を加えようとしていました。

「ま、まってくれ!俺が悪かった!」

「「は?」」

男の間抜けな言い様に私たちは揃って疑問の声を上げました。

「反省している!この通りだ!もう近寄らない!」

そういい、男は立ち上がると腰を折った。突然すぎる行動に私たちは驚き、固まってしまいます。


「もう水菜には近づかないでくれ。それ以外はもういいから消えてくれ。」

司にそう言われトボトボと帰っていく男の顔はなぜか笑っているように水菜の目には見えた。

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