第5話 やっと始まる物語
少女は願う。
一回会っただけの男の子に。
偶然会っただけの男の子に。
私を助けて…そう願った――
何分。何十秒。いや何秒かだけだったでしょうか。
私は願いました。どこの誰かも分からない人に。小さな頃から憧れていたいるいない筈のない『ヒーロー』に。きっとそんな都合のいい話はないとは思うけれど…願わずにはいられなかった。小さな頃に出会ったあの人に会わせて…一緒に本を読んで、一緒に遊んで、一緒に笑いあった…その人に合わせてと。
(助けて…私の『ヒーロー』…!)
そうして一人の少女の悲痛な願いは一人の少年の元に届く。
降りしきる雨の中、雨音とは違う音が少女の耳には入ってきた。
「—――――――!」
信じられなかった。
その音はきっと私が造りだした空虚な空耳だと思った。
だって都合が良すぎてしまったのです。
なんて言っていたのか、何を叫んでいたのか分からなかった。
けど、その少年は私の為に怒り、行動に移してくれた。
私を、この男の人から助けてくれた。
それを『ヒーロー』と呼ばずになんと言うのでしょうか?
殴り合いは一方的でした。
助けていただいた方なのに失礼なのですが、あの体でとてもあの男の人に勝てるとは思いませんでした。日本では確かこんな事象のことを『火事場の馬鹿力』って言うんでしたっけ?今になってしまえばそんな事はどうでもいいのですが。
殴り合いを終えて、少年とも青年とも思える人は私に手を差し伸べてくれました。
いつの間にか私は座りこんでしまっていたのでした。
慣れない日本語でしたが私は少年に感謝を伝えました。
「ありがとう…ございます?」
少年はなぜか私の言葉を聞いて笑ってきました。
(なんで笑ったのでしょうか…やっぱり変だったでしょうか?)
口には出しませんでしたが、私は頬をぷくりと膨らませて少年の瞳をのぞき込みます。
「—―っ!」
(あの男の人と並んでいたのであまり分かりませんでしたが、私よりも身長が高いですね…私の身長が160cmくらいですので170後半くらいでしょうか…すこしかっこいいですね…)
そんな風に考え事をしていると少年は顔を後ろに向けました。
(あ…私って昔からこうなんですよね。男の人と目を見ていると急に顔を逸らされてしまいます…どうしてでしょうか…)
少女は知らなかった。自分の魅力というものを、自分の破壊力というものを。
顔を背けた少年の耳が赤くなっていたということも。
しばらくの間静寂が少女たちを包みこむ。
聞こえてくるのは降りしきる雨音と少年の心臓の音だけだった。
しかし少女の耳には雨音しか聞こえてこない。
まるでラノベの主人公みたいに都合のいい耳だこと。(遠い目)
(どうすればいいでしょうか…)
悠長にそんなことを考えていると、少年は私に傘を差しだしてくれました。
『————。』
あげる。
そう言われた気がしました。
そういえば今雨が降っていたのに私、傘、さしてませんでした。テヘッ!
再び私は少年の顔を見るとなんだか少年の顔が真っ赤なことに気が付きました。
視線がキョロキョロしている気がします。
私の胸元に目を向けて、何もない場所に目を向ける。
(不思議な人ですね…けれどなにか懐かしさを感じます…)
そう感慨に浸っていると聞き覚えのある声が響いてきました。
【お嬢様ーー!!!】
あ、セバスだ。めんどくさいことになりましたね…
セバスは私を見つけると一直線に飛んできました。まぁこの道、一本道なんですけどね。テヘッ!
【どこにいたんですか!探しましたよ!】
もう随分年を取っていると思うのですけど、どうしてそんなに子供みたいなんでしょうね。呆れますよ。
【むむむ?そこにいる少年は誰でしょうか?】
少年はビクッと肩を震わせました。あれ?今セバスが話しているのはロシア語の筈ですが…気のせいでしょうか?
少女はまだ気づいていなかった。先ほどから無意識に飛び出ていたロシア語は少年も理解していたことを。恥ずかしいセリフを多々聞かれていたことも。
「———————!」
少年は何か言って飛び出していきました。
もちろん日本語でしたので私にはわかりません。
なのでセバスに聞いてみることにしました。
【セバス、あの少年はいったい何を言っていたのですか?】
するとセバスはしめた!という顔になって言いました。
【お嬢様はかわいいですねって言ってましたよ。】
【真面目にしないと怒りますよ!】
【あはは、お嬢様。そんなに可愛い顔で怒られても全然怖くありませんよ?】
【むー…】
私は不服そうに唸ってみせましたが、セバスは笑うばかりでした。
【セバス私、あの話は受けないことに決めました。少々自暴自棄になってしまっていました。】
【それがよろしいでしょう。私はお嬢様の味方ですので。】
【ふふふ、ありがとうセバス。】
【いえいえ、それでは帰りましょうか。先ほどから服が濡れて色々と…その…見えてしまっているので…】
一瞬セバスの言っていることが理解できませんでした。
ん?今、服が濡れて色々見えてるって言いましたよね?
ってことはあの少年が視線を彷徨わせていたのは…見えて…いたから…?
私の顔が熱を持っていくのが分かります。
【この…セバスのばか~~~!!!】
【えぇぇぇぇぇぇ??】
私を助けてくれたあの少年。またいつか会えるといいな…
少女はまだ知らない。これから二人の
けれど、それでもいいでしょう。
二つの道はやっと交差してきたのですから。
長い時を経てやっと巡り会った二人。
これからどうなることやら…
■
一日に鬼の二回投稿!!
たくさんのいいねやフォロー、お☆さんがあったからこそ出来えたことです!
見てくださった皆さん!ありがとうございます!
話は物語にうつりますが、5話目にしてやっとコメディ要素を入れることができました…
今作はラブコメですので…
重ね重ねになりますが、見てくださった方々、ありがとうございます!
いいねやフォロー、☆などをつけていただけると更新がとっても早くなります!
まだつけていなかった!という方はぜひ!お願いします!
それではまた次話で!
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