第2話 プロローグ ヒーローに憧れた少年—②
顔を真っ赤にしている銀髪の少女を司は、きれいだと思った。
しばらくの間顔を見合わせた二人だったが、沈黙に耐え切れずに司は声に出して少女に謝った。司は自分が悪いと思ったのだろう。
「ほ、ほんとにごめん…」
そう言って少女に謝る。
「——――――?」
司はとっさの事だったので忘れていた。
少女が司の言葉を理解出来ないこと事を。
少しでも誠意を見せたかった司は少女に向かって頭を下げる。
しばらくの間二人の間にまた沈黙が訪れた。
(どうしよう…きっと怒っているよね…?)
しばらくの間司は必死に思考を加速させていた。が、その行動は杞憂に終わった。
今度は少女の方が沈黙に耐え切れなかったのだ。
少女は銀髪の髪を揺らしながら司に近づく。
「い、いいよ…」
ぎこちない言葉だった。思ってもいなかった言葉が聞こえてきたことに驚いて顔を上げた司は思わず息をのんだ。
さっきまで真っ赤だった少女の顔は白く滑らかな肌に変わっており、にこやかに笑顔を浮かべていたからだ。
その顔はまるで少女を人形のようだと思っていた司にはまぶしすぎた。
(やっぱりきれいな女の子だな…)
しばらく少女の顔を見て惚けているとまた、少女の顔が赤くなった。
(また怒らせちゃったかな!?)
しかしそんな考え事をしている司を横に、少女は「二人で本を見よう?」と司と少女の間に本を開いた。その本はまるで絵本のようだった。
言葉は伝わらなかった。だけど、
少女の考えていることは少年が
少年が考えていることは少女が
手に取るように伝わってきた。
本の内容は司にはよくわからなかった。
書いてある言葉が司には見たことがない言葉だったからだ。
だけど、少女は本を読んでいるときに何度も何度も
「ひーろー!!!」
と本の中にいる人物に指をさして喜んでいた。
(ひーろー…ヒーローのことであってるのかな?)
あのか弱そうで今にも消えてなくなりそうな少女がしきりに喋る『ひーろー』の四文字。言葉が通じなかったのに唯一司が理解できた『ひーろー』の四文字。
きっと少女は余程『ひーろー』が大事なのだろう。
幼く純粋無垢だった司でもわかったことだった。
空が赤色に染まり始めるまで、二人の少年少女は本を読み、遊んだ。
言葉は通じなかった。けれど、お互いの考えていることは手に取るようにわかっていた。たった数時間一緒にいただけ。旅行中に偶然出会ったに過ぎない少年少女達だったが、たった数時間一緒にいたとは思えないような濃密な時間を過ごしていた。
もうすぐ家族のもとに帰らなければいけないだろう。日が暮れ始めていた。
少年は少女に語り掛ける。
「また会えるよね?」
きっとそんなことはない。だって司は少女に旅行中偶然出会ったに過ぎない。
(まだ一緒にいたい…けどみんなのところにもう戻らなくちゃ。)
数時間遊んでいた司にはわかったことがあった。
最初に会ったときは今にも泣きそうだったにもかかわらず、一緒に遊んでいた少女の顔はとても明るくて——
そしてとってもきれいだった。
「——―――――!!!」
また会いたい。
そう言っているように司には聞こえた。
「ぼ、ぼくもだよ!ヒーローになってまた会いに来るから!」
司は今なら少女と話せる気がしていた。
少女は何度も『ひーろー』という四文字を声に出していた。
その『ひーろー』になれたら、少女がサファイアのような目を輝かせて何度も何度も言っていた『ひーろー』になれたら…また会える…そんな気がした。
司は少女に向かって右手の小指を差し出す。
少女も司に向かって右手の小指を差し出す。
「約束…だからね…?」
もう二度と会えないかもしれない少女にまた会おうと約束を取り付ける。
「あげる…」
少女は左手に持っていた本を差し出す。
司は突然のことに驚き少女の顔を見つめた。
少女の顔は最初に出会った頃よりももっと泣きそうな顔になっていた。
だけど、涙をこぼすことは絶対になかった。
少年は約束を。
少女は本を。
また出会うことをお互いに願って————
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます