第11話

 重たい沈黙を破って母がぽつりとつぶやいた。母の顔は穏やかだった。口元は優しく微笑んで、瞳には少しだけ、残念そうな色を浮かべていた。

「でも、そのおかげでしっかりした子に育ったね。」

自虐するように笑う母が切なくて、でも、愛されていることに不謹慎にも嬉しくなった。これまでたくさんもらった愛を思い出して、おしまいなんだ、と改めて自分に言い聞かせた。

 何度も深呼吸して、今日初めて母と目を合わせた。頭の中は空っぽで、言葉の紡ぎ方を忘れてしまったのかと思うほどだった。しばらくしてふと口からこぼれ落ちた言葉は、早く元気になって、だった。絶対に、もう言わないと決めていた言葉だった。自分が発した言葉に驚いたけれどもう引き返せなくて、じっと母の顔を見つめた。また家に帰ってきて、と言っているうちに涙が出てきて、それはすぐに止まらなくなった。母の顔はにじんで見えなくなって、それがまた悲しくて、しゃくり上げながら子供みたいにボロボロ泣いた。ほとんど働いていない頭でそうだ、あの時もこうやって泣いたんだと思い出した。母は困ったように笑って、なーに泣いてるの、といつもみたいに明るく言った。小さく手招きをしたかと思うと痩せ細った腕を私の背中に回してぎゅうっと力を込めた。私も腕を回し返して、一層涙も鼻水も止まらなくなった。お互いに、ちゃんとわかっていた。言葉にしなくても、ありがとうと、愛してるが伝わっている気がした。

 ひとしきり泣いたあと、試験前なんだから早く帰って勉強しなさい、と言って母は私を病院から帰した。

ここで、夢は終わっていた。

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