第7話

 翌日、疲れからか太陽がすっかり昇りきってもなかなかベッドから出られなかった。スマホを眺めながら三度寝ほどした後、小腹が空いてお昼頃ようやく起き上がった。机の上に置いた最中が目につく。昨日の夜食べようか迷って結局賞味期限を見て保留にしてしまっていたのだった。

朝食のような昼食のようなうどんを食べてまた部屋に戻る。スマホの通知を見ると一緒に出かけた友達からメッセージが届いていた。文面から興奮した様子が伝わってくる。あの最中を食べたのだ。

“ほんとに先輩が夢に出てきたよ〜!卒業してから疎遠だったのに、起きたら連絡来てたの!信じられない‼︎頑張って会話続けさせてみる♡”

続けて、ハートでいっぱいのスタンプがいくつも送られていた。

 再び気持ちが揺らぐ。ただのお菓子だという気持ちと本当に夢を見られるのかもしれないという期待が入り混じっている。完全に信じきっているわけではない。むしろ、信じてもいいのなら信じたい。でも、もしも夢で会えると信じて、それを求めて眠ってしまったら、私はもう二度と夢から覚めたくなくなるかもしれない。夢が見られなかったらきっとひどく絶望してしまう。これまでも何度かあったのだ。いないはずの母がキッチンに立っていて、私は高校生だったり幼稚園児だったり様々だけれど、夢の中の私はその後ろ姿を当たり前のように眺めている。何かおかしいと思っていても、まあいっかと、母と二人の時間を過ごす。目覚めた時には母が存在しない世界に帰って来たことを認識してそれがたまらなく悔しく、悲しくなるのだ。

 ようやく母のいない生活に慣れてきたところなのに、わざわざ悲しみにいく必要はないんじゃないか。わざわざ後悔を掘り起こしに行かなくたっていいんじゃないか。

 賞味期限は今日の深夜。まだ、勇気が出ない。

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