第6話

 歩いて来た道を帰りながら串団子を食べた。少し前を歩いている友達は、高校の頃片想いしていた先輩に告白できなかったんだよね、と突然話し出した。

「これ食べたら、夢の中で果たせるのかなあ」

恥ずかしそうに笑いながら振り返って、ひとりごとのように今日寝る前に食べてみようっと、と呟いた。私は笑い返して、早くお昼ご飯のお店に行こうと言った。心の奥がざわついていた。

 

 夕食まで済ませてから友達と別れ、家に帰った。真っ暗な部屋でベッドに入ってから、私の後悔について考えた。思い出そうとしなくても、数えきれないくらい母との会話が浮かんでくる。小さな後悔はたくさんある。ちゃんとお弁当のお礼を言えばよかったとか、もっと一緒に出かければよかったとか、挙げればキリがないけれど、これはたぶん一番の後悔ではない。毎朝穏やかに笑う母の遺影を見るたびに思い出すのは、母が入院してからのことだった。お互いがこの先に待ち受ける現実を怖がって、何一つ伝えたいことを伝えなかった、考えないようにまでしていた、あの時のことだ。もしもあの時に戻れるのなら、その場限りの元気になって、なんて言わないと決めていた。そんな余計なことは、絶対に言わない。今ならきっと、大好きだよとありがとうだけを、何度でも伝える。伝わるまで何回でも言葉にする。母は悲しんだだろうか。そんな改まった言葉を口にして、待ち受ける別れを恨むだろうか。それでも何も伝えられないで突然終わるよりはずっといい。そうするべきだったのだ。私がどれだけ母を愛していたか、母の娘でどれだけ幸せだったか、伝えなければいけなかった。

この日は気づかないうちに眠りに落ちていて、真っ暗闇に浮かんでいるような感覚に怯えて目が覚めた。

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