第5話

 おばあちゃんは立ち上がって私たちに近づくと、内緒話をするように手を口に当て、最中を二つ差し出した。柳の一文字がおされている、まんまるの小さな最中だった。

「これはね、創業してからずうっとあるお菓子なんだよ。今はもうこんなに小さな店になっちゃったけどね、昔は柳堂って言ってそりゃあもうここらじゃ有名な店だったんだから。」

六畳ほどの小さな店で、深い紫の暖簾も色褪せていて、とてもじゃないけどそんな有名なお店には見えなかった。

「一人の時にでも大事な人のことを考えながらゆっくり食べてごらん。いい夢が見られるよ。」

話半分に聞いていると、おばあちゃんは私の目をじっと見てきた。

「所詮夢なんて、って思うだろう。でもね、夢は自分を助けるには十分なんだよ。どんなに後悔していることがあっても、夢の中で謝れたらそれだけで気持ちが楽になるんだよ。」

友達は興味津々で話を聞いていた。そのうちおばあちゃんはがさつに笑って、

「まあ、信用しなけりゃ何も起こらないよ、おいしく食べな。」

と言って最中をくれた。何も買わないのも申し訳なくて、串団子を一つずつ買って店を出た。

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