第4話
この春私は大学生になった。高校に入学した頃の志望校から二つほどランクを落として、地元の単科大学に進んだ。キャリアウーマンだった母がいなくなって、浪人も私大も厳しくなった。昔からの友人も多くいる大学で居心地は良かったし、サークルやアルバイトも始めてそれなりに普通の女子大生としての生活を楽しめるようになった。人が増えればその分家庭の形も様々になる。幼い頃に両親を亡くした友達もいたし、中学の頃に離婚して母子家庭の子は数人知っている。わざわざ家族構成もその経緯も話すことはなく、母のことを口にすることもなくなった。
例年より一週間ほど早く梅雨入りをした。雨が降るのか降らないのかギリギリの空を見ていると、去年傘を差したりたたんだりしながら病院に向かっていたのを思い出す。大学では中間試験休みが始まっていて、大学に入ってできた友達と少し遠出をする計画を立てた。
だんだんと日中は蒸し暑くなってきて、夏が来る気配が感じられた。たまたま久しぶりの晴れ間が当たり、有名な海鮮丼を食べに海の近くに出かけた。友達の地元は山のふもとだったようで、波打ち際で楽しそうに跳ねていた。梅雨の平日の海は空いていて、お土産屋や屋台を出しているおじさんも退屈そうにしていた。砂浜から少し離れたところに、おばあちゃんが一人で店番をしている和菓子屋があった。古びた店の前にはあられや煎餅がバラ売りされたカゴが置いてあった。おばあちゃんは私たちに気づくと今日初めてのお客さんだ、と言って一口分の羊羹をくれた。話好きなおばあちゃんで、友達は喜んで羊羹を口にし、おすすめは何か聞いていた。私はショーケースに並んだ苺大福や蓬餅を眺めた。
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