解れ
どこから入ってきたのか季節外れの蚊がカーテンの所でブーンと鳴っている。
男は反射的に音のするところで手のひらをパチンと叩いた。
一瞬で蚊は男の手のひらの間から床に落ちた。
この部屋に入ってこなければ殺されることも無かっただろうに。
入ってきたのが運命か。
しかし外に居たからといって、この蚊は何か月も生き延びるわけじゃないし、どんな死に方をするかの違いだけだ。
痛みを感じる間もなく、一瞬で消滅したということか。
蚊の一生は細やかでも自然界の何かの役にたったのだろうか。
生まれてきた意味があったのだろうか。
意味があっても無くても、どうでもいい。人間の都合のいいように解釈するだけなのだから。
人と比較しないと決めてきたはずが、男は世間の人を羨んで、劣等感を抱いていきていることに、息苦しさを感じていた。
親も兄弟もいない今、自分の過去を知るものは自分以外には居ない。
不幸だと言う記憶に縛り付けているのは自分自身であって、過去を不幸と決め付けているものはこの世には他に誰もいない。
記憶違いだったと思えば、不幸な過去からは解放される。
簡単なことだ。
簡単なことを、何年も何年も、やらずにきた。
オレは友也の言うように頑固なのか。
今まで怒った顔をしている人に、もう笑ってもいいと言われても急には笑えないが、
ハイ、カッァト!
監督が声を上げてこのシーンは終了。
で次の場面に展開すればすむはず。
蚊の一生は短いのだ。明日は来ないかもしれない。
プライドなんて屁。
何の役にも立たない。ぶち壊さなければ再生できないではないか。
正直に並の生き方をする、男は何かが解れるような気がした。
その晩も次の晩も、踊る女を眺めた。
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