2話目
二回目の「2012年4月13日金曜日」。
朝7時。私は部活メンバーと一緒に顔を突き合わせていた。
「部長、どうするの? 朝練始める時間だけど」
「んー、朝練やってる場合じゃないような気がするなあ」
「で、でも、やらないと、古賀先生怒るんじゃ……!」
三年の先輩方はどうするか口論している。
西先輩も2年生で固まって情報を交換していた。
私も同級生と話し合う。
「やっぱり昨日金曜日だよね。私だけじゃないよね」
「うん。だって金ローでコナン観たし。みんなも観たよね!」
「観た」
「観てない」
「観た~。面白かったね~」
「そうか? あたしは断然天国へのカウントダウン派かな」
「……ベイカー街一択」
「雪子もコナン観たっ?」
「観てない……って、コナンの話はどうでもいいよ! とにかく、みんな昨日がさ、金曜日だって覚えてるんだよね」
私が聞くと、みんな頷く。
「でもさ、今日も金曜日だよね」
やっぱりみんな頷く。
「……おかしいよね」
「私思うんだけど~スマホの故障じゃないのかな~」
「ここにいる奴全員のスマホが一斉に壊れたのかよ。ありえねーだろ、常識的に」
「じゃあさ~夏樹はどう思うのさ~」
「やっぱさ、ループしてんだって。あたしら全員エンドレスエイトなんだよ」
「何それ~?」
ハルヒの説明を始めた夏樹を無視して、私は考え込む。
ループ? 本当に? とても信じられない。
でも、私一人じゃない。この場にいる全員が、昨日が金曜日だと主張している。
一つ、思いついた仮説がある。
これは、夢じゃないだろうか。
土曜日の私が、金曜日の夢を見ている。
口々に言い合う部員たちも、全部私の夢……。
頬を抓った。痛い。……夢じゃない。
じゃあ、本当にどういうこと?
納得できる答えが見つからない。知らない記号が使われた数式を見ているようだ。
その後、どうしたのか。
本来の開始時間から20分遅れで朝練は開始された。
「せっかく早起きしたんだから体動かそうかあ」
という部長の一言に、皆が従ったのだ。
私たちはそこまで部活に燃えていた……! というわけではない。
わけのわからない気持ち悪い状況について、これ以上考えたくなかった。
走っている間は忘れられる。私たちは異常な状況から逃げるように、いつも以上に声を出してグラウンドを走った。
朝練が終わり、私たちは授業を受けるために教室に戻った。
古賀先生は来なかった。
◇
教室に入ると、3分の1ほどの生徒が登校していた。
やっぱり、いつもより少ない。
私が入室すると、教室にいた生徒全員が私を見た。
「お、おはよう……」
「昨日は何曜日?」
一番近くにいたコンピュータ部の成尾くんに声をかけられ、私は思わず
「金曜日……」
と返してしまった。
途端に教室中の生徒がひそひそ話を始めた。
「やっぱり……」
「これ、教室全員そうじゃね?」
「っていうか学校全体そうだよこれ……」
あっという間に注目されあっという間に興味をなくされた私は自分の席に座る。
隣の席の暁さんがおいっすーと声をかけてきた。
「ループ系主人公になった気分はどう?」
「これってループ系なの?」
私がきくと、暁さんはさあ、と肩を竦めた。
「でも、金曜日が2回来たよ」
「ループ系って、自分だけがループするもんじゃないの?」
「普通そうだよね。あーあ、私ループ系主人公になりたかったな。意味深に呟いて、周囲を混乱させたかったなあ」
「趣味悪……」
「そう、このループのあなたはそうなのね」
「うざ……」
「ふふふ、あなたにそれを言われたのはこれで7回目よ」
ひとしきりふざけあった後、ところでさ、と私は切り出した。
「これってどれだけの人が巻き込まれてるんだろ? それでいつ終わると思う?」
「いつ終わるかは分からないけど、どれだけ巻き込まれてるかは分かるよ」
そう言って、暁さんはスマホの画面を見せてくれた。
Twitterのトレンドを表示している。
【金曜日 二回目】
【ループ】
【土曜日 来ない】
「もしかして、日本中がこうなってるの?」
私が聞くと、暁さんはまさかぁ~と笑った。
「世界中が二回目の金曜日に大騒ぎになってるよ」
始業のチャイムが鳴った。教室の半分は空席だ。
担任教師は姿を現さない。
何一つ分からないまま、私たちはただ大人の到着を待ち望んでいた。
この世界はループしている。みんながそれを知っている。 鈴鹿龍悟 @suzukaryuugo
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