この世界はループしている。みんながそれを知っている。
鈴鹿龍悟
この世界はループしている。みんながそれを知っている。
目を覚ますと、見知った天井だった。
覚醒した私は即座に目覚ましを止めた。
スマホを見れば今日は「2012年4月13日」だ。
知っている。
起床して1時間。この1時間がもっとも苦痛に満ちた1時間だ。
ネットが更新されない。既知の情報しか入ってこない。
本棚を見ようとも思わない。並んだ書籍は「2012年4月12日」となんら変わり映えしていない。つまり10年以上変わっていないということだ。
ベッドから起き上がった私は鏡の前に立つ。
15歳の少女がそこに立っている。
「おはよう、『私』」
私は鏡に話しかける。
「『私』は何歳になったの?」
「私は15歳だよ」
「『私』は……」
「たぶん、25歳かな」
◇
それは、何の前触れもなく起こった。
「2012年4月13日」。金曜日だ。
その日の私は、普通に朝練に行って、普通に授業をだらけて、普通に部活をして、普通に家でテレビを見て、普通に寝た。
翌日、目を覚ました時も、私はいつも通りに起きた。今日は土曜日だ。
授業はない。当然、朝練もない。朝9時からの午前練習に行けばいいだけだ。
毎日朝練に間に合うために朝5時半に起きているから、土日でも早起きだ。
この空いた時間を読書に当てようと、私は贔屓にしているネット小説を読むため、スマホを開いた。
「2012年4月13日」。金曜日だ。
「えーっ!」
私は飛び上がった。確かに昨日は金曜日だったはずだ。
金曜の次は土曜日。そういうルールのはずだ。
おかしい。おかしい。理不尽だ。
でも、実際にスマホは金曜日と表示している。
私とスマホ、どっちがおかしいのか。……おかしいのは私だ。
小学校の時にパソコンの授業でネチケットは学んでいる。ネットに書かれた情報が正しいとは限らない。
でも、スマホのカレンダー機能まで疑い出したらキリがない。
昨日は木曜日だった。私が金曜日と勘違いしていた。
あるいは昨日の金曜日は夢だった。
どちらにせよ、私がやることは急いで登校することだ。
木曜と金曜を間違えるのは構わない。授業がズレるから教科書を忘れるくらいだ。もしかしたら体操着を忘れたりもするかもしれないけど。
けど、金曜日と土曜日を間違えるのはやばい。
だって、金曜日は朝練がある。
7時から始まる朝練に間に合わなければ、コーチと先輩からきつく説教され恐怖のペナルティがあるだろう。
私は朝食も取らずに自転車に飛び乗ると、必死に学校までペダルを回した。
この時、すでに世界中でパニックになっていたのだが。当時の私は知る由もない。
校庭の所定の場所に集合すると、6時55分だった。ギリギリセーフだ。普段こんな危険なことはしない。
けれど、集まっている陸上部員はまばらだ。半分程しか集まっていない。
「西先輩……」
私は一番仲の良い先輩に声をかけた。
「今日人少なくないっすか。サボりですかね」
「ねえ雪子さん。今日って金曜日だよね?」
西先輩は言う。
「そうですよ。朝スマホで確認しましたから」
「昨日は何曜日だった?」
「そりゃあ、金曜の前は木曜日っすよ。……恥ずかしい話、昨日が金曜日だと勘違いして、今日遅刻しそうになったんですよね」
あはは……と私は笑った。西先輩は笑わなかった。
「私も昨日は金曜日だと思ってたよ」
「……二人も勘違いするなんて、珍しいっすね」
「今日ここにいる部員みんな、昨日が金曜日だと思ったんだって」
え……と私は部員を見渡した。先輩方も、同級生も、みんな不安そうな様子だ。
「おかしくないですか。金曜の次は土曜ですよ。何で金曜の次が金曜何ですか」
「たぶんだけど……」
西先輩は真顔で言った。あまりにもふざけたことを大真面目に言った。
「私たち、ループしてるんじゃないかな」
この時、私は知らなかった。このループが世界規模だということを。
地球の全生物が「2012年4月13日金曜日」に閉じ込められたことを。
明日は、永久に来なくなった。
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