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「夏来、悪いな」
申し訳なさそうな父親の顔。祖母が入院することになり、しばらくの間母親が祖母に付添うことに。夏来が急に呼び戻された。
長女だった夏来は、それなりに覚悟していたこと。夏来の家は祖父の代から中華料理屋を営んでいる。いわゆる女系家族で、祖父も父親も婿養子。都会にいるうちに自分なりの道を確立しておきたかったのだけれど、結局何をやっても中途半端。年末に起きたこともあって、ここに戻ることを受け入れる用意はできていた。
「おねえちゃん、あたしは絶対嫌だから」
母親に似て、妹の秋羅は気が強い。年末に帰ってきた時は、もうこのままずっとこっちでいいかと思っていたけれど、妹の言葉に反発してしまった。
「おまえの好きでいいから」
父親の優しい言葉。涙が出そうになる。
「初詣も行かないで、ずっと部屋の中にいたの」
春子の少し遅い初詣に付き合わされる。
「出かけたよ。でも、どこに行ったかよく覚えてない」
「あんたらしいね」
「彼には連絡取れたの」
「取れなかった、連絡したんだけれど」
嘘ばかり。よく考えてみると、春子は夏来のことをよく知らないし、夏来も春子のことをよく知らない。
もしかすると、ずっと嘘ばかりの関係だったんだろうか。夏来は春子の横顔を見てそう思った。
「あたしたち、何で知り合ったんだっけ」春子が夏来に言う。
「なんだったかなあ」
夏来は覚えていた。学生時代にバイト先で初めて会ったことを。
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