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「あたしと一緒でも嫌なの」
「イヤ」
「あいつ、夏来に会いたがっているのよ」
「彼のことだって聞きたいでしょう」
「もういいの」
「何がいいのよ」
やけに粘ると夏来は思う。彼氏ができて少し変わったように思えた。あの男はあれから家には来ていないけれど、夏来はなんとなく気配を感じていた。初詣を春子に誘われたけれど、あいつに会ってしまうような気がして断ってしまった。
「そんなに悪い奴じゃないじゃない」
「もともとあんたの友だちだったんだし」
「そりゃそうだけど」
「まあ、それだけ神経質になるのなら、会わない方がいいかもね」
春子はちょっと不満そうに電話を切る。
別に春子が嫌なわけじゃない。何なんだろうこの疎外感は。夏来は年末でにぎわう商店街を人ごみに揉まれながら歩いていた。
「私はこの世の中でたった一人」
夏来は無意識に歌っている。誰の曲だったかは思い出せない。
「人ごみの中でたった一人」
夏来は都会の中を彷徨いながら気がつくと故郷に向かう電車に乗っていた。
「今年は実家に帰ることにしたから」
春子から電話があった。春子の実家はどこだったろう。愛知か三重かその辺だったような。
「四国だよ。言ってなかった」
そう言えばうどんの話を聞いたような。そんなことを思い出す。
そして、夏来は都会に取り残されたことになってしまう。
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