「あいつにちゃんと理由聞けばよかったのに」

 ワンホールのままのケーキにフォークを刺しこんで春子が言う。

「いやだよ。あいつと二人きりなんて」

 夏来のフォークが春子のフォークが刺したケーキの反対側を刺す。

「でも、知ってたんでしょう。あいつ」

「多分」

「どうするの、料理」

「どうしよう」

 夏来と春子はテーブルを眺めた。

「急に仕事が入ったんじゃない」

「フリーターだよ」

「フリーターだって、仕事は入る」

「でも、終われば来れるでしょう」

「それはそうだ」

 春子はすでにケーキの3分の1を食べきっている。春子のフォークが止まらない。

「前ぶれはなかったんだ」

「全然。それとも、気づかなかったのかな」

 封筒の中にはお金が入っていた。相当な金額の。夏来は、そのことは春子に言っていない。あいつが落としていったのかもしれないし。

「手切れ金」

 夏来がつぶやく。春子には聞こえていない。

「ねえ、夏来。料理少しもらっていっていい」

「彼、あんまり食べてないみたい」

「こちらこそ。ゴメンね、今日は」

 春子の彼氏が春子を迎えに来た。

「思いつめないでね」

 片づけはほとんど春子がやってくれた。その間、彼氏は外で待っていたらしい。

「そのうちちゃんと紹介するから」

 遠くから「ジングルベル」が聞こえてきた。夏来はゆっくりとドアを閉める。

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