旅立ち

阿紋

「どうしたの、夏来」

「これから家に来ない」

「だって今日は…」

「そうだよね」

「一人じゃないものね」

 テーブルに並べられた料理。真ん中に置かれたクリスマスケーキ。夏来は部屋の隅で膝を抱えて春子に電話している。

「どうしたの」

「あたし行くよ、今から」

「いいの」

 今日はあたしの家でって言ったのはあいつじゃない。夏来はじっと玄関を見つめていた。

「ごめん、今日は行けなくなった」

 まだ耳の奥に残っている声。あいつの声。

「夏来居るのか」

 ドアをたたく音。誰が来たのかすぐ分かった。絶対会いたくない。

「開けてくれよ」

「ダメ、帰って」

「あのさ、あいつ急に」

「なんで、あんたなんかに」

「しかたないだろう。友達なんだから」

「やっぱり、俺じゃダメなのか」

「わかってるくせに」

「ねえ、あの人はどこに行ったの」

「ちょっと、遠くにさ」

「本当に」

「しかたないんだよ」

 ドアの向こうが静かになる。夏来は恐る恐るドアを開けた。

 封筒が落ちている。

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