戦場
「戦場を、見たことがあるか?」
しばらくして、カイが訊いてきた。
「…いや。」
僕は短くそう答えた。当然だ。日本に住んでいる高校生が、戦場を見たことなどあるはずもない。そんなことはカイもわかっている。カイは質問をしたかったワケじゃない。質問しながら、“戦場”というモノを、思い出してるんだ。
「ある日、家の中に
カイの言葉は、そこで一度途切れた。
「人の怒号や叫び声、泣き声、非常ベル、何かが崩れる音、燃える音、そしてまた爆発音、先刻程じゃないけど、それなりに大きい爆発、おそらくランチャーか何か。銃撃の音も聞こえ出して、俺は母さんに引っぱられて、何処に向かっているのかもわからず、ただ逃げ回った。その内辺りも暗くなって、銃撃の音が一旦止んだ。炎に揺れる街を改めて見て、俺も母さんも呆然となった。その内母さんは俺の手をギュッと握りしめて、フラフラと街を
「……」
「街を彷徨っている時に、子供の泣き声が聞こえた。炎が燃える瓦礫の中、泣いていたのは、おそらくは母親の、その子の手を掴んだまま千切れた腕を、左手に握り、右手で、血を吸って真っ赤に染まったぬいぐるみを抱えた女の子だった。母さんは足を止めて、しばらくして、その子に近づき、左手に握った腕を放してやると、右手に抱えていたぬいぐるみをギュッと絞って、ビチャビチャと血を流し切って、また女の子に返してやって、その左手を握った。そして逆の手で俺の手を握ると、また歩き出した。その時の女の子が、…ベルだ。」
「⁉」
「その後は、どうにか父さんと合流し、国を出た。後は先刻言った通りだ。」
「……」
カイの話は、受け止めるには、僕の許容範囲を超えていた。ただただ、混乱し、怖くなった。
「人は死んだら星になる。空から、俺達を見つめている。……まさしくその通りだ。あの、星のチラチラと仄暗い輝きは、あの時、俺の目に、俺の頭に焼き付いた、あの輝きだ。みんなが、あそこから俺を見てる…」
「……カイ…」
「星は、…呪いだ。」
そう言って、カイはまた、歯を食いしばった。
そして、こう、言葉を絞り出した。
「星なんか、…大嫌いだ……」
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