第45話 重い空気の色
「さて、と。そろそろ行くよ、その薬は機会が来るまでとっておくといい」
「待って、雹真さん」
「なんだい?」
1歩目を踏み出したらもう雹真さんは止まらないと、振り返る瞬間によびとめる。ボクが雹真さんにかけれる言葉なんてないのに、止めなければならない気がした。
「えっと……」
「用がないなら行くよ。薬を取りに来ただけでも時間を使いすぎた。早く瑠璃の元に行かなきゃ」
ボク達に背を向けて決定的な1歩目を踏み出そうとする。ボクは咄嗟に叫んだ。
「ボク達も連れていってください!」
「……え?」
「ラヴァさんから今回の作戦には関わるなと外されました。でもボクだけ瑠璃さんのピンチに何もしない訳にはいきません。ボクも連れていってください」
全部本当。ただ付け加えるなら貴方を1人で行かせたくない。そのために口から出た勢いばかりの言葉だった。
「僕が今から何をするか……本当にわかってる?」
背中を向けたまま表情も分からず言葉をなげかける。
法の外側の薬物を使い、名家の当主をどうするか。今から雹真さんがやろうとしていることは、事情を知らなければ。いや、知っていても許さない人もいるかもしれない。
だからこそなのか、危うい薄氷の上を走り抜けようとするこの人を一人で行かせたくない。この人の綺麗な青を汚したくない。
「分かっている……つもりです。たとえ青龍さんとその薬を使って戦うとしても、ボクも何かできることが……」
「君は本当に分かっていない。僕とあの人が戦えばどちらも無事じゃ済まない。薬を使ってとんとんだと思うけどね」
プレッシャーが薄れて淡々と話し出す。その言葉は言って聞かせるようにすっと耳に入ってくる。
「戦いが激しくなればなるほど、どちらかが大怪我をする。運が悪ければ死ぬかもしれない。それだけじゃなく浅葱のみんなが邪魔してきても容赦はしない」
知り合いの死を想像できない。あんなに強い雹真さんでさえ浅葱の当主と戦うのはそれだけ厳しいということなのだろう。
「そしたら君は血の赤を見る。今までの自分の怪我や周りの戦った勲章とは違う。ただただ流れる意味の無い血をね」
「血……?」
「今まで君が見てきた血はどれもかっこよかったと思うよ。ラヴァちゃんやゼインなんかと戦えば流れる血すらも気高いだろうね」
「そ、それで。血がなんですか……」
「理不尽に流れる重い暗い赤を見た時に。ネス、君は赤を失う可能性がある」
「え……?」
失う。全く意味がわからない。血を見て失う? 今までだって戦いの中で血は少なからず流した。この前なんて失血死寸前まで血を失った。
雹真さんは何を気にしているのかボクには検討もつかない。
「色の強さはイメージによって決まる。ラヴァちゃんなんかはバーミリオンの篝火をながめて自身を炎とかした。なら君の赤は何でルーツを得た?」
「ラヴァさんを見て……」
「気高い彼女を見れたのはまだほんの少しだけ。ならこれから始まる浅葱と僕の戦争は君が初めて見る誇りの無い戦いだ」
完全にこちらを振り向きボクの目をじっと見つめてくる。
「そ、それでも! ボクだって戦えます!」
「赤でトラウマにならなければいいけど、まぁ決めるのは君だから好きにしなよ」
「トゥー、雹真さんについて行くよ」
「ネスが決めたならついて行くぞ!」
「よし、行こう」
分不相応にも雹真さんといい戦いができたからか、ボクは雹真さんを一人にはしないと、この時は思い上がっていた。
《無色透明》な人生からでも最強になれますか?〜色が全ての世界で無色でも冒険者になりたいと思います〜 アヴィ丸 @AviMARU917
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