第44話 協力の色

「着いた」

「でっかい家ー」


 瑠璃さんに呼ばれて向かった時とはまた違った緊張が走る。今の浅葱は瑠璃さんを強制移送するために警戒度が段違いだ。

 衛兵も前のように不審な点がないか確認するだけでなく、近づくもの全て倒してしまいそうなほどだ。


「ここから見ていても仕方ないか……」

「でもあと少し近づいたらおじさん達に見つかるぞ?」


 今ボクたちは浅葱家の正門から少し離れた場所から覗いている。裏門から近づくのが鉄板だと思うが当然浅葱の警備は裏門や柵付近など全体的に警備が濃い。人数をかけて瑠璃さんを確実に移送する、そんな青龍さんの意思が見える。


「でもここで待っていても仕方ないよね」

「突撃か!」

「いや、待って。誰か出てくる。あの氷……雹真さんだ。浅葱とは昔に縁が切れているはずなのにどうして家に……」

「どーする? とりあえず追いかけるか」


 雹真さんは氷を存分に使い、影から影に氷の鏡を作りだし瞬間的に移動していた。雹真さんほどの青の濃さだからこそできる氷の使い方だろう。

 氷そのものの青を宿した体が写し出された雹真さんを影へと送り出す。影から影に移動し警戒網をぬけて浅葱の外へと抜け出す。

 音もなく出された氷は静かに水滴を残して消えていた。衛兵は何も気づけない。


「まだあんな技隠し持っていたんだ……。お祭りだから正面から戦ってくれただけなんだ、すごいや雹真さん」

「感心してる場合じゃないぞ! 見失った!」

「なーにしてるの?」

「「うひゃあ!」」


 また影に薄氷が1枚。ボクたちの背後に。突如現れた雹真さんが首筋に冷たい手を添えてくる。驚かされたボクたちは隠れているのも忘れて大声を上げてしまう。

 慌てて口を抑えて後ろを振り返る。そこにはドッキリが成功したのが余程嬉しいのか、いつもの掴みどころのない少年のような顔をした雹真さんが立っていた。


「2人ともこんな所でどうしたの?」

「雹真さんこそ! 浅葱家に何の用事が……」

「んー、僕はこれを取りに来たんだ」


 雹真さんの手元で試験管に入った青い液体を揺らしてみせる。影のせいか試験管に入った液体は重く不安にさせる青だ。


「それ……なんですか? アンナ飛び出し方したのに、そんなに必要なものなんですか」

「んー、これはね……ドーピング薬的な。君にも1本あげるよ。何本かあるし」


 腰のホルスターをポンポンと叩きながら試験管を一本渡してくる。暗い青に吸い込まれそうだ。


「ドーピング……。違法薬物ですか?」

「違法だなんてそんな、浅葱謹製だよ。ただ巷で出回っているものよりも色により深く、濃く堕ちるけどね」

「い、いりません! 雹真さんも早く捨ててください!」


 トゥルエノは森では見ない液体に怖がりながらも興味があるのかボクの後ろから覗き込んでいる。

 ボクに渡した試験管は浅葱が秘密裏に精製した強ドーピング液らしい。巷に流通するものでも色の力を倍増させると話題で、その開放感や全能感で使用する人が後を絶たない。

 薬が切れた後は色が元より薄くなり、薬を服用し続けなければならなくなる。そして何度目かの接種後、色は濁り能力は発動しなくなる。

 それよりも強い副作用の薬を雹真さんは腰のホルスターにまだ隠し持っているというのだ。


「でもこれがないとあいつには勝てないよ。君にもそれを飲んででも赤のお姫様を護りたくなる時が来るかもしれない。僕にとってら今、瑠璃が護るべき人だよ」

「でも、瑠璃さんだって雹真さんが色を失うことを望んでなんて……」

「望まないだろうね。後で怒られるし嫌われるかもしれない。でも瑠璃の未来はあいつなんかに邪魔されちゃダメなんだよ」


 雹真さんの絶対零度の冷たい目線が、ボクが投げかけようとした言葉全てを真っ白に飛ばした。

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