第42話 漏れる色

「さてと、そうと決まれば早く準備しないと」

「トゥーもエレトロの所行ってくる! すぐ追いつくから」


 雹真さんとの戦闘で放出した雷を蓄電しに森へと向かう。ラヴァさんと別行動をとるボクにとっては不可欠の戦力だ。

 あとは浅葱家の守衛に見つからないように隠れながら移動出来る手段がほしい。ボク達は盛大に戦闘するわけにもいかない。

 迎えに来ただけの有名な家系の保護者に本気で色をぶつけたら、それこそアクリルの大問題になる可能性がある。


 理想としては最上位の青に見つからないように、消えるくらい存在を隠せる都合のいいアイテムがあれば……。


「ネス……? 急にどこに消えたんだ?」


 急にトゥーがキョロキョロとし始める。目の前にいるのにどこに行っただなんて変なことを言う。


「ここに居るよ?」

「うわ! 今ネス消えてたぞ」

「消え……る?」

「匂いもしなくなってネスがそこにいなくなったみたいに!」


 自分の鼻を指さしながら興奮気味のトゥーが駆け寄る。

 ボクは今何もしていない。赤の力への理解度が上がったからできることが増えたのかもしれない。

 感情が昂って色が漏れだしているなら少し気をつけなければならない。

 

 まだ自分の体に透明が流れているなんて知らないネスは、この力の存在に気づけなかった。


「でももう普通だなー?」

「なんだったんだろう」

「赤のおねーちゃんも消えたことは無いよね?」

「ボクが知ってる分には無いかな」


 気持ちが昂って赤が揺らめいたのだろうか。炎で思いつくものは陽炎くらいだが、今そんなに熱を出しただろうか。それに、ラヴァさんが使った事の無い技術を俺が使えるのだろうか。

 

 自分の手を胸に当て、赤の揺らぎを確認する。確かに小さくても煌々と燃えている赤はラヴァさんから先程の回復で受けとったものだろう。

 自分が思っている以上に感情的になっているのかもしれないと、ひとつ深呼吸する。


「よし、落ち着いた。それじゃ行こうか」

「まずはエレトロに会いに行くよ。ちゃんと着いてきてね」


 気軽に言ってくれる。どれだけ手加減してもトゥー程の速度はボクには出せない。


 トゥーが窓から飛び出し、屋根をつたって走り抜けたと思われる方向にボクも走る。赤を巡らせ城壁まで一気に走り抜ける。


 屋根伝いにトゥーが走り抜けただろう電気の残滓が残っている。パリパリとよく目立つ目印を頼りに走った。


「いた!」


 ハァハァと息を切らして城壁を超えたあたりの森でトゥーと白虎の姿を見つける。


「思ったより早かった! まだ充電すんでないから待ってて!」


 エレトロに触れながら大量の電気が辺りに漏れる。植物や地面でもこの放電量はキツそうだ。ざわざわと草木が揺れながらトゥーを中心に波打っている。

 そよ風のざわめきと違う圧倒的な黄色のエネルギーによる森の声はどこが重たい。


「無色の少年か」

「え……」


 エレトロ……さん? が声をかけてくる。きちんと座った白虎は迫力がすごい。低い轟のような声が耳に響く。


「先日は世話になった。君がこの森を護ってくれたのだろう」

「え、先日? な、なんの事ですか」

「とぼけなくていい。この子に隠したいのなら頭が弱いから話もわからん」


 恐らく森を護ったことなんてサラマンダーくらいしか思いつかない。あの場にいなかったエレトロに言い当てられるのは理屈に合わない。

 エレトロの腕の間でバチバチと雷を補給しているのであろうトゥーは何も分かっていないように目を閉じている。


「サラマンダーを倒したのはラヴァさんです。ボクじゃない」

「赤のお姫さんには悪いが、あの程度の赤では塗りつぶされるぞ」

「だからってボクなんかが……」

「この森での事は全て私の耳に入る。私は君を知っている」

「それって……?」


 森でのことを全て知っている。ひとつの疑問が脳裏を過った。

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