第41話 底の色
ああ、ボクはまたやってしまった。ラヴァさんの事になるといつもそうだ。
ラヴァさんの一声でハッとした。ラヴァさんがどんな気持ちでボクに鋭い声を投げかけたのか分からないが、その瞳は真剣そのものだった。
しんと静まりかえる部屋、トゥーが食べる音だけがカチャカチャとやけに響く。
「ネス、分かるよね」
「……すみません」
「今回の瑠璃様奪還からはネスを外そう。熱くなって正常な判断ができない者は必要ない」
「ぜ、ゼインさん!? そんな、ボクも行かせてください!」
「戦場ならネス1人の犠牲で済む。しかし、浅葱との戦争の火種になる可能性のある馬鹿を無闇矢鱈と連れて行くわけにはいかない。そもそもこれは家族間の問題であってアクリルの損失だからと私達が手を出していい問題じゃないんだ」
「でも、瑠璃さんがいなくなればバーミリオンだけじゃ依頼が回らくなります! ならどんな手段でも瑠璃さんを」
「そういう所が連れていけないというのだ。蒼龍様は策士だ、ネスの純度の高いその心につけ込みアクリルに娘を預けるのは間違いと結論付ける可能性がある。お前をそんな理由に使わせられないよ」
「ゼインさん……」
ゼインさんもしつこいボクを諦めさせようと優しい理由も混ぜる。どちらも本当でどちらもボクはやるだろう。それでも、それでも。
「ボクは、なんて無力なんですか……」
大粒の涙が止まらない。料理に雫が垂れる。護るべき人のそばにいられない、たったそれだけの事がボクの心に深く刺さる。
無力なりに、無知なりに、無色なりに頑張ってきた。恐らく蒼龍さんはラヴァさん、ゼインさんと戦うだろう。正攻法で立ちふさがる2人の壁を超えるには倒して極東に逃げ込む方が圧倒的に楽だ。
その場所にボクはいない。想像するだけで末端からスっと力が抜ける。
緩く握られた拳からフォークとナイフが抜け落ちカランカランとこ気味いい音を立てた。
「ネス食べないのか?」
今の今まで食べるのに夢中だったのかカトラリーの音に反応してくる。
「あげるよ」
「いいのか! でも後で何か食べるんだぞ、怪我したんだから」
今は食欲もない。食器を押してトゥーに渡す。
「それじゃあ2人はそのまま食べていてくれ、私とお嬢は手続きを踏んでくる」
「ネス、また護ってね」
パタンと静かに扉を閉められ取り残される。トゥーはボクのお皿まで食べきったのか美味しそうにコップに注がれた水を飲んでいる。
「ぷはー! それで、ネスはどうするんだ?」
「どうって……、もう何も出来ないじゃないか」
ラヴァさんにまで「また今度護ってね」と言われてしまえば、もうボクが飛び出すわけにはいかない。
今回はバーミリオンの任務をこなしてお留守番だ。
「でもまた護ってねって言ってたぞ?」
「だからそれはまた今度って……」
「じゃあ今回はどうするんだ?」
今回……。確かにラヴァさんは今度なんて言っていない。また、とだけ言っていた。
また護って、ゼインさんに伝わりにくいようにボクにも来いと伝えていたとしたら。ボクにも何か出来ることがあるということなのだろうか。
泣いて赤く腫れた目に残る雫を拭いさり、立ち上がる。
「トゥー、ありがとう。そして、力を貸して!」
「ネスは元気な方がいいからな! いっぱい遊ぼ!」
アクリル情勢に詳しくないイレギュラーな2人組が作戦に加わることが決まった。
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