第39話 瑠璃奪還に向けての色
「それくらいにしておけ雹真、年寄りに君の冷気は刺さる」
「おっと、ごめんねばぁや。瑠璃のことは任せてよ、悪いようにはしないから」
「いえ、雹真様のお怒りもごもっとも⋯くれぐれもやりすぎませんように」
ばぁやと呼ばれた老人は瑠璃さんの現状を伝えてすぐに立ち去った。浅葱の一員としては任務以外で雹真さんに関わること自体避けるべきことなのだろう。
「さてと、僕もう行くわ。あのおっさん決めたら早いからさ」
「闇雲に行っても瑠璃様の立場が悪くなる、まずは踏み込む名目をだな⋯」
「ゼイン、俺に立場なんて関係ないよ。あっちが先に僕を浅葱でない他人と割り切ったんだ。今更厳格な浅葱がそれを覆すことは無い」
雹真さんひとりなら浅葱との対立も生まれず他人の干渉だから瑠璃さんにも不利益は生まれないと言いたいらしい。
「時間が無いんだ。ご都合主義の物語じゃないんだから、今しかないんだよ」
「だが相談役は前当主の蒼龍様だろう。いくら雹真でも青で負けていては勝ち目はないだろ」
「一人でも行くしかないだろ、誰かが止めなければ瑠璃は極東でまた監獄のような家に逆戻りだ!」
怒り憎しみ、大切なただ一人の妹を護ろうと浅葱へと感情を爆発させる。話を聞いた直後は冷たい怒りだったのに、今では爆発した感情が行き場を失って氷が発生していない。
「僕はもう行くよ。あいつならもう動いてるはずだから。一秒でも早く動かなきゃ、それじゃネス君お大事にね」
パタンとドアから出ていく。正直ボクには何がどうなっているのか分からない。浅葱の家の事情を知らないボクは蚊帳の外だった。
ゼインさんもこればかりは頭を抱えたらしく、ボクに説明をする余裕はない。
重苦しい空気を破ったのは一番何も考えていない少女だった。
「⋯お腹減った」
トゥーが目覚まし時計のように腹の虫を鳴らしムクリと起き上がる。
「ん? みんなどーしたんだ?」
「うん、まずはご飯食べよう。二人ともヘロヘロだし」
「そうは言ってもお嬢⋯」
「急いで動いたってワタシ達はバーミリオンだからいい結果にはならないよ。きちんと手順踏むにしても作戦立てなきゃ」
「⋯はぁ。たしかに、私が慌ててもどうしようもないですよね。わかりました簡単な食事が取れる所に行きましょう」
「にーくー!」
一刻をあらそうゼインさんも、正式な手順を踏んで瑠璃さんを助けようとしているラヴァさんも、どちらもきっと正しいのだろう。
ただ急いでも雹真さんのように正面からぶつかる以外の選択肢はなかっただろう。
ゼインさんもそれが分かっているからラヴァさんの案に乗った。
それが吉と出るか凶と出るかはまだ誰にも見通せない。
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