第38話 闘色祭後の色

「っつ⋯」

「あんなに無茶して」

「ラ、ラヴァさん! なんでここに、闘色祭中は都市の警備のはずじゃ⋯」


 闘色祭会場の医療室だろうか、隣のベットにはトゥーが同じように寝かされ、ベット脇の椅子にはラヴァさん、ドア前にはゼインさんと雹真さんが談笑していた。


「闘色祭は雹真さんが出場した時点で前倒しになったから、悪い人がいればリタイアした冒険者が鬱憤晴らしに倒してくれるよ」

「そ、そんなもんですか」


 何にせよラヴァさんに看病されるのはこれで二度目か、出会ってからひと月と少しなのにハイペースすぎる。


「あんな賭けに出なくたって色をぶつけ合うのが闘色祭だよ? それでこんなに傷だらけになってたらネスの体がもたないよ」


 出会いから始まり、サラマンダーでもベットで寝転んでいたボクを心配しているのだろうか、たしかに短期間でミノタウロスも含めれば、三度目の治療室は身近な人にとっては心配な出来事かもしれない。


「す、すみません」


 ボクはラヴァさんの注意に反射的に頭を下げる。


「まぁそう言ってやるなバーミリオン、ネス君は圧倒的な実力差を前にしても勝つことを諦めなかった。奥の手を隠しているのは気に食わないが、まずは褒めてやるといい」

「今日の反省点を糧に、雹真に届くようにまた鍛え直さなければな」

「はははっ、ゼインにしごかれるんじゃネス君は入院している方が良かったかもしれないね。どうだい、また僕とやるかい? もちろん今度は隠している奥の手ありきでね」


 雹真さんは森であった時のように飄々とした口調で話を弾ませる。明らかに決勝戦の時とは雰囲気もオーラも違う。


「ネス君は素直だね、顔に思ってることが全部書いてある。そうだな、ボクの色は青と白だからね氷を扱うためにはクールでなくちゃ」

「純水を扱えるのは雹真が純粋だかららしいぞ」

「えぇ⋯」


 圧倒的な色の持ち主、浅葱 雹真はイメージを強く持つということを解釈違いでやっているらしい。あまりにも極端な性格の変動はそのせいだったのか。


「こんなにも強いのに頭が弱いんだ。あまり触れてやるな」

「おいおいゼイン! 上級討伐でちょくちょく助けてやっただろ!」

「基本は瑠璃さんとツーマンセルでしょ、助けられたのはほんの一度や二度ですし、苦戦していても勝てる戦いです。それで恩を売りつけられては困ります。おまけにその後散々食事に連れ回されて代金は払ったじゃないですか」

「ははっ! 酒が入ってなければ堅物なのは相変わらずだなゼイン」


 本当に陽気な人だ。あのゼインさんが呼び捨てで呼ぶのを初めて聞いたから仲はいいと思っていたが、これ程とは思わなかった。堅物のゼインさんに分家だったからかアウトロー気質な雹真さん、零距離最強と近中遠万能の二人のやり取りを眺めていると冒険者としてなんだか憧れが胸に生まれる。


 突然顔を挟まれ逆に向かされる。ゼインさんの方を眺めすぎてラヴァさんのことを完全に放置してしまっていた。


「ラ、ラヴァさん⋯? い、痛いですよ」

「ニコニコしてない。早く寝て治す、いい?」

「は、はい」

「おー、赤の嫉妬は怖いねぇ」


 雹真さんがからかうとラヴァさんは大人しい顔でじとっと扉の方をむく。


 そのタイミングで雹真さんはひょいっと扉の前を避けるとノックが鳴る。

 ゼインさんが少し開け来客を確認するとボクの知らない人が慌てた顔で立っていた。


「お、ばぁやじゃん、どったの」


 開けたゼインさんより早く、一番初めに反応したのは雹真さんだ。


「ひ、雹真様⋯瑠璃様が、浅葱の相談役達の決定で極東へ連れ帰ると、任務に出たところを⋯」

「⋯どして?」

「今回の闘色祭に勝手に雹真さんを出場させたことが気に食わない様子で⋯前から瑠璃様を自由にさせたくない方でしたので⋯」

「武功しか興味のない無能のくせに、僕を追い出しておいて任務は僕と瑠璃任せで自分は隠居、しまいには言うこと聞かない瑠璃を極東に連れ帰るだって⋯」

「ひ、雹真様⋯」

「どこまで自分勝手なんだよ⋯」


 パキパキと手を触れている扉が凍る。お世話係であろう老人も扉から一歩引く、怒った雹真さんは冷たく、鋭い色を感じさせた。

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