第37話 闘色祭決着の色
「さぁ咲け、氷蓮」
無数の氷刃が地面を削りながらボク達を襲う。数本止めても他の刃が体をえぐることが目に見える。
ボクとトゥーは回避を余儀なくされた。
「逃げたって勝てないよ! 僕がわざわざ人前で氷蓮まで見せたんだ、華々しく散りなよ!」
蓮の中心を手元に残し後の全てはボクとトゥーを追いかける。二対一が有利だなんて雹真さん相手に思っていたのが馬鹿だった。
「でもまだ作戦は終わってない! 砕く手間が省けただけだ!」
「ネスの方は大丈夫かー!」
「大丈夫! このまま行くよ!」
「君達の咲き方を見せてくれ!」
圧倒的な実力差にもかかわらず諦めないボク達を面白がってか雹真さんも熱を帯びてくる。
だけど熱はボクの物だ。ラヴァさんから貰った最上級の赤を煌々と燃やす。ボクの目は扱える限界を超えた力に呼応するように、憧れの人の色のように煌めく。
「はぁっ!」
多くの花弁に隠された的確に攻めてくる氷刃のみを熱で落とし、後の氷刃は体を捻ることでかする程度で済ませる。肌を裂かれ薄く血が吹き出すが、まだ動ける。熱を帯びた血と筋肉はボクの体を止めようとしない。
トゥーと一緒に会場内を氷刃を連れて駆け回る。高速で動き回るボク達は時折交差し、氷刃同士をぶつけようとしたが、紙一重をすり抜けて一向に枚数は減らない。
迎撃の精度も走れば走るほど落ちてきて、何度も迎撃した頃には体に花弁が刺さっていた。
それでも避けながら何度も何度も雹真さんに近づこうと氷刃を掻い潜り駆けた。
「っぐ⋯!」
「なんで諦めないんだ。今君達を攻撃している花弁以外にも、僕にはまだ残している。もし攻撃をかいくぐって僕の元へ辿り着いたとしても君達の攻撃は通るはずもないんだ」
「たしかに、炎もろくに操れないボクじゃまともにダメージなんて期待できないですよ⋯」
ボクがわざわざトゥーと交差するように避けた理由は会場が狭いからじゃない。
トゥーの耳打ちでそう見えるように避けていた。トゥーが見つけた氷に対抗できる可能性に賭けて。
「でも、これだけ溜めれば⋯通りますよね」
「全開バリバリィ! いっけぇ!」
トゥーが逃げながら防御に一度も使わなかった雷を一点に拳に溜めて遠距離から振り抜く。拳から放たれた雷撃は雹真さんに向けて放たれる。トゥーは使い切ったからか体がショートしたように倒れ込む。
「だから純水と氷じゃ雷は通らないんだって⋯っ!」
雹真さんが狙いに気づいて急いで氷刃を集める。トゥーが狙ったのは氷刃の隙間。空気中に浮遊した氷刃は完全に凍ったまま溶けることなく、攻撃の度に擦れている。溶けて水も発生しない氷の摩擦で静電気の道が生まれている。
「でもまだ華はあるよ!」
「『雷獣』の雷、面では受けれても鋭く細かくなった氷で受けきれますか⋯」
氷刃の隙間をぬって雷の龍のように襲いかかる。トゥーが蓄電した全てを込めた一撃は薄く鋭く研がれた氷刃を破壊しながら静電気の道を辿る。
高速で唸る雷の龍は雹真さんが氷刃を氷壁にする暇を与えず、氷刃で受けさせる選択を余儀なくさせる。
だがボク達の思惑通りにいかないのがやはり最上級の冒険者だからなのだろう。
「誰も受けるだなんて言ってないよ、言っただろ華は攻めるために咲くって」
「なっ!」
華を集めるのは防御のためと思った。そうすれば氷壁のように脆い箇所がない訳では無いので絶対にくずせると思っていた。
しかし、雹真さんがそれに気づかない訳もなく、氷刃を高速回転させてドリルのように雷に対して構える。
戻して氷壁に組み替えるより、戻しながら螺旋を作る方が圧倒的に早い。
高密度の氷刃の螺旋は向かってくる雷の龍を霧散させた。パリパリと残滓を残す雷が氷に写り、やけに綺麗に見えた。
ボク達に勝つすべはなくなり、雹真さんが拳をあげる。立ち上がらない二人はその証明で、闘色祭の勝者が決まった。
「⋯⋯しょ、勝者雹真選手。実況も放棄して手に汗握ってしまいましたが、これにて決着! 圧倒的な強さを見せた雹真選手と果敢にも立ち向かった若き冒険者に惜しみない拍手を!」
(パチパチパチパチ)
観客達も腰を抜かしているのかルーセントさん以外誰も声をあげずにただただ惜しみない拍手が送られた。
その拍手の音が気持ちよくてボクは熱されたからだを冷やそうと短い眠りに落ちた。
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