第36話 雹真の真の色
「何をしようとしても同じだよ。僕の色は不利を打ち消せる、雷獣やバーミリオン相手ならともかく君達くらいに遅れは取らないよ」
左右から高速で距離を詰めるボク達相手に余裕の迎撃体制をとる。
ボク達の攻撃が届く瞬間。
(今だ!)
「うおっりゃぁ!」
出現した氷壁を砕いた。
「おぉっと高速で一撃を入れようとした二人は今まで通り氷壁に阻まれるぅ! 雹真選手の氷壁を超えなければ勝利はないぞ!」
「もとから氷壁狙い⋯? 砕いたところで直ぐに氷結するのに、持久戦狙いか⋯?」
「持久戦なんて以ての外です! 雹真さん相手にボクがスタミナ勝ち出来るわけないじゃないです⋯っか!」
それでも攻撃をとめない。氷壁は雹真さんの一定範囲に踏み込むと出てくる。その範囲内で雹真さんの動きを見ていれば目の色の揺らぎから氷壁のタイミングは測れる。
タイミングを合わせれば密度の高い硬い氷壁を砕くことはできる。
「そうやって氷壁を崩してはヒットアンドアウェイなんてのは時間稼ぎ以外どんな理由があるって言うんだい!」
「!」
氷壁のタイミングを手で操作してずらし、防御から攻撃として使う。今までは感覚的に行っていた氷壁の防御は、地面から突き出す氷の大剣と化す。
動きがある方が直接の操作のため氷の速度が桁違いだ。赤の速度を強引に合わせることが出来ず、短剣をすり抜けた氷刃はボクの脇腹を貫く。
「っつ⋯く!」
「傷ついても立ち向かうんだね⋯。僕に出来なかったことを無色だった君はその若さでできるんだ。分かったよ、これが短い間だが友人になった君への手向けの氷華だ」
雹真さんが地面の下で冷やしていた氷壁を地上へ引き出す。大きいのが二枚と小さいのが数枚ある氷壁はどうりで砕いても砕いても凍る前に次があるはずだ。
「僕は家でも白い目で見られていてね、まだ幼くても僕のことを無視できない瑠璃と抜け出して河川によく遊びに行ったんだ」
「急に⋯何を?」
氷壁を地面からゆっくりと引き抜きながら昔話を始める。
今詰めるべきはずなのにボクもトゥーも足が凍りついたように動かせない。雹真さんが隙を晒しているにも関わらず放つ絶対的な圧がボク達を張りつけにした。
「ただの昔話だよ、僕の技の起源さ。せっかく君に見せたくなったんだ、何も知らずに僕の技を受けれる貴重な体験をするのは損でしかない」
雹真さんは嫌々戦って居そうな雰囲気が少し減り、昔話を始めた口調は飄々とし始めた。
少しも興味無い事にはドライになるらしい。氷使い的には順当かもしれない。
「さて、続けるよ。僕の技だけど、今浮いている氷壁は大小合わせて十三枚、これが『氷壁蓮華』って言うんだけど、これは瑠璃と見つけた蓮の花をイメージしてるんだ」
抜ききった氷壁を自分の周りに集め、あたかも咲いたように見せてみる。たしかに氷の花は美しく、ボクは見蕩れていた。
「この辺だと見れない花なんだけど不思議な花でさ、とても綺麗で瑠璃が喜んでいたのを今でも思い出せるよ」
口数が明らかに増え、その顔には優しさが浮かぶ。
「でもその後バレて僕は瑠璃の元を離された。瑠璃が浅葱の当主になり、遠いアクリルに向かうと聞いて追いかけるときに一本の蓮華を見つけたんだ」
氷の壁が細く、鋭く分裂していく。今何枚に分裂したのか分からない枚数にまで膨れ上がる。
「その花は妙蓮と言ってね、極東で今でも遺伝子情報が分からない花らしい。あぁなんて僕なんだろうと思ったよ、僕も青を受け継いだのにどこからか白が混ざってしまった。おかげで強い力を得ても、瑠璃のそばに堂々と居られない」
氷の刃が花弁となって集まっていく。その花が妙蓮と呼ばれた物なのだろう。
「この技の名前はその花から取った⋯さぁ咲け『氷蓮』」
(⋯まずいっ!)
妙蓮を象った氷の華が咲く瞬間に無数の刃がボク達にを襲う。小さく薄く密度を極限まで高めた氷刃は模擬戦用の木刀で砕くにはあまりにも固く、躱していなす事が精一杯だった。
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