第32話 闘色祭波乱の色
「なななななんとぉ! 雹真選手、対戦相手を氷漬けにしたァ! 人に勝てるレベルじゃないぞぉ!」
投げつけられた酒を巻き込んで氷を精製して対戦相手を氷漬けにする。
唯一声を出せているのは解説のルーセントさんだけだった。観客は全て凍りついたかのように微動だにせず、その圧だけで雹真さんに氷漬けにされてしまったようだった。
「リタイア待ちを宣言し、それに従わない愚か者を凍結! えぐい、えぐいぞ雹真選手ゥ! え、なになに?⋯えっとここで入った情報ですが、雹真選手の出場を確認した時点からリタイア続出で、ななななんと現在残ったのは三名のみとなりましたぁ!」
「えっ⋯?」
「確かに人いなくなってたなー」
「えぇ⋯そんなことある⋯?」
確かに待合室でトゥーとおしゃべりしてる間に、扉をくぐる人は多かったけどトゥーとモニターを行き来していたボクはそれほど周りの闘技者の顔を見ていなかった。
恐らく見ていればリタイアする人たちの顔は一様に青ざめていたのだろう。
「この場合どうなるんだろ⋯もしかして祭り自体が無くなる⋯?」
「トゥーのおやつだいは!?」
「なくなるかもね⋯」
ボクはお祭りの心配、トゥーはおやつ代の心配と、二人だけが残った待合室にも不安が満ちる。
間もなくしてルーセントさんが祭りの進行を宣言した。
「お待たせ致しましたァ! 闘色祭運営と確認しましたところ、残る三名のデスマッチで優勝者を決定するとのことです! 優勝大本命の雹真選手、俺の推しのネス選手、ファンの多い元気っ子トゥルエノ選手の三つ巴だァ!」
「⋯てことは擬似的に三原色のバトルか?」
「青の雹真に、無色での参加とはいえバーミリオンのネス、雷獣と生活しているトゥルエノだろ? 今年の闘色祭やばいんじゃないのか⋯」
ルーセントさんの宣言に会場がどよめく、それもそのはず、バーミリオンは都市の治安維持、浅葱は家系のみでの上級討伐、雷獣は森での生活と要所以外での他の色との関わりを避けている。
その三原色が擬似的に戦うというのは都市でも異例のことらしい。都市に来たばかりでも観客のどよめきからそれがよく分かる。
「決勝戦は雹真さんの希望でこのあとすぐ始まるぞ! ネス選手、トゥルエノ選手は会場に上がってきてくれ!」
「このまま始まるのか⋯雹真さん余裕だな」
「おやつ代のためにも負けられない⋯」
「そうだね、負けられないね」
モニター越しに彪馬さんと目が合った気がする。カメラを眺める雹真さんの目はまだ冷たく尖っていた。
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