第31話 闘色祭予選の色
結論から言ってしまうと一回戦にドラマなんて発生するわけがなかった。当たり前だ、ボクが相手にしていたのは手抜きとはいえ都市最強のゼインさんだ。並の冒険者をあの化け物と同じ風に考えてはいけない。
相手が弱かったのではなく、今までの相手が悪かったのだと瞬殺した男性の傍らで手を上げてみせる。
「「「ウォォォォォォォォオ!!!」」」
「な、なんということだァ! 対戦相手も決して弱くはないぞ! 齢五十まで現役を貫き、今でも若い冒険者達の指南役でその茶色を容赦なく使っているリグフット・ブロウンが瞬殺だァ!」
数秒前の登場時にも聞いた紹介をダウン後の人物紹介にも使われる。彼は茶色を駆使してその歳に見合わない長槍を振り回そうと体にタメを作った。
「一撃必殺のリグフットの槍が炸裂する瞬間体を捻って槍の軌道に合わせて最小限で懐に滑り込みみぞおちに木刀が深深と突き刺さったぞ!」
⋯ということだ。ゼインさんの木刀より質量がなく、速度もない。避けるのに大きな動作が要らなければ攻撃に移るのも必然的に早くなる。
槍を突いた動きに対しての高速の急所へのカウンターは相当聞いたらしく悶えて動けない。
「リグフット! 無念の高速KO! 今ギルドの医療班が担架を持ってきているぞ! もう少しの我慢だ!」
「だ、大丈夫ですか?」
「ぐっ⋯うちの若いのにもこんな奴はいねぇぞ⋯。ゼインのやつめ、自分の後継者すら化け物にする気か⋯」
ゼインさんへの恨み節を残してブロウンさんの意識は途絶えた。
担架で運ばれたブロウンさんを見送ってルーセントさんの勝利宣言を聞く。
「闘色祭、記念すべき第一勝目は、何を隠そう俺が応援している無色の同胞! ネス・クレアだぁ!」
「「「ウォォォォォォォォオ!!!」」」
なにはともあれ、無事に一回戦を突破できてよかった。雹真さんとの戦いのことも考えるとほとんど消費なく戦えたのも大きい。この調子なら雹真さんともいい勝負が出来るかもしれない。
「雹真さんとは次の次か⋯待合室に戻ってモニターで見ようかな」
二回戦はトゥーでも雹真さんでもないので、どちらも応援せずただこの祭りに参加した意味を果たすべく、両者の動きを確認しようとし、トゥーが遊びたがるのを止めていたがやはりゼインさんとの稽古以上に得られる情報はなく観察も断念、雹真さんの試合までトゥーのおしゃべりに付き合っていた。
「さぁさぁ! 第三試合も好カード! なんとなんとあの浅葱の最強と謳わ⋯」
(パンパン)
雹真さんがルーセントのアナウンスを遮るように手を叩きながら扉をくぐる。
「浅葱の名前は出さないでくれよ。僕の妹が勝手にやったんだ、その名前がつくと妹がどやされる」
「し、失礼いたしました。では対戦相手を⋯」
「いいよ、彼くらいなら瞬殺だから。名乗りを上げて瞬殺されたら恥ずかしいでしょ。待っててやるからさっさと降参してくれ」
「な、なんという自信! なんという傲慢さ! しかし彼にはそれをするだけの力があります! ではこのまま試合を開始したいと思います!」
「そんなやつぶっころせぇ!」
「青の家系だからって調子のってるぞ!」
「俺ら冒険者が舐められてやってられるかよ!」
「雹真さん⋯?」
観客席にいる酒を片手に見物していた冒険者が皆酒を投げて怒り狂う。
モニターの雹真さんはそんなこと関係ないように目を閉じて凍りついたように動かなくない。対戦相手はその行動、会場の空気に絶句し数秒動けずにいたが、怒涛の攻撃を仕掛ける。雹真さんは青も超一流だ、相手の攻撃は水を切るようにすり抜ける。
なんだか雹真さんの雰囲気が違う。飄々としているあの喋り方の影も見えず、今は氷使いに相応しく絶対零度の冷ややかさだ。彼は本当に同一人物なのだろうか。
「なんだか嫌な奴だなー。強いのは分かるけどトゥーは嫌いだ」
「雹真さんこんな感じじゃなかったのになぁ。人気のないとこ以外ではこんな感じなのかな」
浅葱の中で腫れ物ように扱われているだろう雹真さんは、家の評価に繋がる世間ではこのように生きているのかもしれない。
なら森や通路で話した飄々とした雹真さんが皆が知らない本当の雹真さんなのかもしれない。
「考えても分からないよね、また今度話しかけられたら聞いてみよっか」
「ネスはあの男のこと好きなんだな。ならトゥーも好きになるよう頑張るぞ」
「ちゃんと話せばトゥーも好きになるよ」
相手はそれでも懸命に攻撃を仕掛けるが、手応えのない攻撃に嫌気がさしたのかとうとう切れた。
「俺はリタイアしねぇぞ! 俺だって冒険者だ!」
「じゃあ⋯仕方ないか」
雹真さんがため息を吐いた瞬間モニターが氷に包まれ、会場の熱気が嘘のように冷えきりボクは肌を擦った。
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