第29話 闘色祭当日の色
「よし、行ってこい。大丈夫だ、お前が戦っていた男はこの都市でも指折りの冒険者だ」
「はい! ゼインさん!」
「よしよし、いい返事だ。今まで私に殺されかけたことを思えば怖い敵なんていないさ。存分に当たってこい」
「はい!」
「二人とも、ほどほどにね」
ボクは期待に応えようと、ゼインさんはほぼ面白がって変なテンションで会話が続く。それを見たラヴァさんが不安になるほどだ。
「ラヴァさん見ていてくださいね。スカーレットの名にかけて絶対に勝ってみせますから!」
「う、うん。気をつけてね」
「はい!」
ボクの勢いに押されてかラヴァさんも少し引き気味だ。
「朝とても緊張していたもので軽く暗示をかけたら見事にかかってしまいまして。実力を発揮出来れば面白いことになるかとしれません」
「怪我だけはしないで欲しいけど⋯」
「赤の使い方も上手くなりましたから、そう心配されなくても大丈夫でしょう。ここは見守りましょう」
「それもそうだね。頑張って、ネス」
ラヴァさんもサラマンダー戦のボクを知っているからか、必要以上の心配は失礼だと思ったのか応援だけして闘色祭中の都市警護へと向かった。
「よし、やるぞ⋯」
ボクも参加者待合室に向かう通路を歩きながら気合を入れる。
先程のような悪ふざけのテンションではない。スカーレットの一員として負けるわけにいかない。ラヴァさんやゼインさんに恥をかかせないようにボクは勝たなければならない。
「とはいえまだ冒険者になったばっかりなんだよな」
今まで生きてきた分くらい濃い日常を都市に来てから味わったが、経験値としては微々たるものだ。そればかりは時間がものをいう。
一対一の戦闘を最強格の冒険者に指導して貰えたとはいえ、小技や駆け引きは人に合わせて無数にある。
ゼインさんがボクをエントリーしたのも恐らくそこを補うためだと思う。
「はぁ⋯どうなるかな」
「ため息なんてネス君らしくないね。サラマンダーを倒した男のくせにさ」
「え⋯その声、雹真さん! 雹真さんも闘色祭出るんですか」
「普段は出ないのだけど、瑠璃が勝手にエントリーしててね。ネス君が凄いことをやってのけたから浅葱にアピールしたいんじゃないかな」
「アピールですか⋯?」
「そう、今まで二人で倒してきたモンスターのうちの一匹をネス君はほぼ単独で倒したと浅葱は踏んでると瑠璃から聞いた」
「そ、そんなの誤解ですって! 第一まだ冒険者になってひと月ほどですよ、そんなこと無理に決まってるじゃないですか」
瑠璃さんが呼び出したのも、別れ際のお兄さんのためというのも、浅葱がマークしているボクがやった事で兄妹の評価が変わるからだとしたら納得が行く。
「誰が倒したかなんて確かめられなければ思った者勝ちだよ。本当はラヴァちゃんが倒してたとしても、浅葱はラヴァちゃんにそれだけの力があると評価していない。そしたらイレギュラーは君だけなんだよ」
確かに倒したのはボクだし、隠してはいるがサラマンダーは屈服し今ではラヴァさんが飼っている。そのために死体も出ずに現場検証が出来ないから浅葱も疑う程度で済んでいるのだろう。
「まぁ、浅葱の中でサラマンダー討伐が一人で出来るとなれば僕達兄妹は強さの証明が出来ないからね、瑠璃が余計な気を使わなくていいように君を倒すことで浅葱にアピールさせてもらうよ」
「え、えええええ! 雹真さんに勝てっこないですよ!」
「瑠璃は任務だから今日は一人だ。あのゼインが見込んだ少年の実力、楽しみにしているよ」
手をヒラヒラとしながら待合室の扉をくぐる。恐らく勝ち進めば雹真さんと当たるだろう、ゼインさんの評価を聞く限りでは都市最強格の雹真さんが負ける想像がつかない。
「家の事なんてボクが気にしたって仕方ない。貴重な機会だ、胸を借りよう」
拳をぐっと握りしめボクも続いて待合室の扉をくぐった。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます