第28話 闘色祭前日の色

「ただいま戻りましたー」

「お疲れ様」


 ラヴァさんが出迎えてくれる。帰る頃には日が落ちていたのでラヴァさんはもう寝る準備を済ませていた。

 寝巻き姿にドキッとしてしまうので話を逸らす。


「ゼインさんはまだ戻ってないんですね」

「仕事は減っても多いからね。でもネスに振れてだいぶ楽になったらしいよ、言わないでって言われてたけど」

「ゼインさんの役に立ててるのならなによりです」


 普段ゼインさんはあまり褒めてくれないのでラヴァさんから話が聞けるのはなんだか新鮮だ。


「お嬢⋯言わないって約束でしょう」

「だって全然褒めてあげてないから」

「いいんです、褒めるところは褒めています。なんでも褒めていてはメリハリがつきませんから」


 ゼインさんもラヴァさんには頭が上がらないからかあまり強く言えていない。稽古では死ぬほど追い込むのに、小さな女の子一人に慌てるゼインさんはなんだか可笑しい。

 ボクのその雰囲気を察知したのかゼインさんはボクの首根っこを掴む。


「仕事してもまだ体力が残っているようだな。就寝前に少し稽古をつけてやろう。失礼しますお嬢」

「明日も早いから程々にね」

「いや! 止めてくださいラヴァさぁん!」


 その後の稽古はいつもより激しかった。いくら慣れてきたと言っても都市最強格の冒険者との稽古だ。戦えるようになったというよりも回避、回復の能力だけが上がっていく。

 護衛にするために無理やり詰め込んだ稽古の時は教えることが目的だったため隙を作ってくれたが、正式に護衛になってからはその隙を潰して実戦形式で戦っている。

 勿論ボクが一撃打ってもまともに入らないのにその間に五回はあわや死ぬんじゃないかという攻撃を撃ち込まれる。


「強くなったよな⋯ネス。サラマンダーと戦った後から見違えるようだ」


 あまり褒めないと言われたのを気にしているのか、慣れないなりに褒めようとしてくれることが伝わる。

 返事が出来ればいいのだが、ゼインさんには片手間でもボクにとっては全ての攻撃が即死級だ。これがゼインさんの照れ隠しならもう褒められなくてもいい。


「強くなるには戦うしかない。どんなものでも技術だけは実践の中でしか磨かれないからな」


 ゼインさんの語りかける言葉に耳を向けて意識がそっちに向いたせいで攻撃をかわし損ねた。

 目の前で木刀が止まり、風圧が髪を揺らす。


「さぁ、一本だ。明日から忙しくなる、ゆっくり休め」

「明日⋯ですか? ラヴァさんも言ってましたけどなにか新しい仕事ですか」

「そういえばネスは都市に来たばかりだったな。明日からは闘色祭だ都市の色自慢が鍛え上げた技と色を見せ合う祭りだ。観客はそれを見て都市の冒険者の強さに安心感を抱き、冒険者は技を競うことでより高みを目指す。素晴らしい祭りだ」

「⋯なんでボクなんですか?」

「スカーレットは毎年都市の治安維持に駆り出されていてね祭りには参加しないんだ。だが今年はネスがいるからな、ネスは本来治安維持の頭数には入っていないから刺激になればとエントリーしてみた」

「ゼインさんが出てたらみんなやる気なくなりそうですもんね⋯」


 都市最強格のラヴァさん、ゼインさんがエントリーしようものなら多くの冒険者が出場辞退待ったナシだ。


「その程度の者には元から興味もないさ。それに、今回戦うのは君だ」

「闘色祭なんて冒険者なりたてのボクが勝てるんでしょうか⋯」

「スカーレットの一員としても勝たなければならないな」


 ゼインさんはにやりとボクの頭をポンとして言い放つ。

 確かにスカーレットのラヴァさんの護衛であるボクが無様な試合を見せれば、観客はスカーレットに不安感を持つだろう。確かにボクは負ける訳には行かない⋯。


「や、やります! 勝ってスカーレットが最強だと見せつけてきます」

「その意気だが無茶はするなよ、あくまでもお祭りだ」

「よっし⋯やるぞ⋯」

「やれやれ、聞こえてないな」


 ゼインさんは微笑みながら自分の世界から戻るまでボクを見つめていた。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る