第26話 出会いの色

「ただいま戻りました」

「おかえりなさい」

「おかえり」


 浅葱家から帰ったボクをラヴァさん、ゼインさんが優しく迎えてくれる。退院後正式にスカーレットの護衛として抜擢され、今では堂々とスカーレットの敷地に帰っている。


(何回入っても緊張はするんだけれどね)


 瑠璃さんからの手紙が力を発揮したのもボクがスカーレットに所属が決まっていたからだ。まだ個人的にラヴァさんに付き合っていた頃なら無視もできただろうが、一度所属してしまえばそんなことをする訳にも行かない。

 スカーレットの一員、ラヴァさんの護衛に正式になった今、あの瑠璃さんに会うのは避けられない事だった。

 しかし、瑠璃さんは思っていた以上に気さくな方だった。緊張しているボクに合わせてフランクに会話をしてくた。上級モンスター討伐ばかりしているから都市の評判は良くないが、面と向かってみるととてもいい人な気がした。


「どんな呼び出しだったんだ。スカーレットの者が浅葱に呼び出されるというのは」

「サラマンダー討伐の際の事でした。ボクもよく分かってないのでほとんど答えられませんでしたけど」

「援軍を呼んでおいていざ着いた時には倒されてましたなんていうのは浅葱からしてもいい話ではないからな。特に武功だけで評価を得てるのだから当然の質問だろう」


 ボクが透明の存在をうっかり少し口に出してしまったのは隠しつつ本当のことを伝えた。瑠璃さんの真剣な眼差しの前で全てを隠し通すのはなんだか失礼だと思ったからつい口が滑ってしまった。


(本当は分かるまで隠さなきゃいけないはずなんだ、もう誰にも言わない···)


 心の中で少しだけ嘘をついたのを申し訳なく思いつつ決意を新たにする。


「瑠璃は···今も元気だった?」

「え···元気でしたけど、瑠璃って随分親しげですね」

「うん、友達」


 大人しくしていたラヴァさんが話を終わった頃を見計らったのか口を開く。

 アクリルの二大派閥の当主が友達···やっぱりラヴァさんは凄いな···

 瑠璃さんの青なのに快活な性格とラヴァさんの赤なのに控えめな性格は相性がいいのかもしれない···。


「お兄さんの雹真さんも一緒だった?」

「お兄さん? 瑠璃さんだけでしたよ。あ、でもおにいのためって呟いてました」

「やっぱり気にしてるのかな···」

「?」


 ボクに分からない話でラヴァさんは少し考える素振りを見せる。

 気にするってなんだろう···。


「雹真はな瑠璃様と一緒にアクリルに出てきたんだ。しかし、雹真は浅葱の分家の出だから当主としては宗家の瑠璃様が選ばれた」


 ボクのはてなマークを見かねたのかゼインさんが丁寧に説明し始めてくれた。

 なんでも能力だけで言えば次期当主は兄の雹真さんに決まったはずなのだが、純血の青というだけで瑠璃さんが当主に選ばれたらしい。


「瑠璃様の能力についていけるのは雹真だけだ。アクリルに来てからはツーマンセルで上級討伐を行っている。一度一緒させて頂いたが見ものだぞあの二人の戦いは」

「ゼインさんがそう言うなら凄いんでしょうね···」


 ゼインさん相手に何度も死にかけたことを思い返す。背筋が冷える、その言葉の説得力は抜群だった。親しみやすい瑠璃さんがゼインさんにここまで言われる化け物には思えない。

 次会う機会があれば気をつけようと心に刻んだ。


「特に雹真なんてすごいぞ。あの細身からは信じられないくらい濃い青と白だ。上手く合わせて氷を使うらしいが純粋な青だけでも瑠璃様以上だと言う者もいるくらいだ。私は雹真の混色以外で本気の単色の青を見たことがないけれどね」

「当主以上の青に、白の混色で氷を使える···雹真さんって何者なんですか···」

「さぁな。瑠璃様を大事にしていること以外他人が知れることは無いんだよ」

「な、謎な人なんですね···」


 浅葱家最強の青と白の混色、それ以外の情報はゼインさんからは聞かなかった。色が理由で宗家から認められない。無色のボクとは違うのに、なんだか色をとやかく聞きたくない気がしたからだ。


「強い色でも悩む人っているんですね···」

「強くなったからこそ目立って悩みの種が生まれたのだろう。分家でこれ程の男は見たことがない。相当な努力を重ねたのだろうよ」


 ボクの師匠はきちんとその人の中身が見れる人だ。今の言葉でなんだかボクは嬉しくなってしまった。


「ぜひ会ってみたいです」

「雹真は神出鬼没だからな。上級討伐に参加しても瑠璃様とだけでなければ本気の色は使わないらしい。余裕があってあの火力だ、ぜひ手合わせしてみたいものだ」

「ボ、ボクは会うだけでいいですね⋯」

「第一透明を使えなければネスの今の実力では近づくことさえ出来ないだろう」

「そ、そんなにですか」


 しょぼん。そう聞こえそうなくらいボクは肩を落としてガックリと項垂れた。サラマンダーを何とか退け、ボクに眠る色も覚醒して、スカーレットの一員になった事でラヴァさん達の仲間入りをしたつもりになっていた。

 しかし、雹真さんの話を聞くと無色で無くなったとはいえボクと上級冒険者の間には高い壁があるのだと実感する。


「ま、なんだ。私でも雹真は本気で相手することは叶わないだろう。それほどの人だよ、彼は」


 ゼインさんにそこまで言われるなんて、とてもボクなんかが関わることは無いとこの時までは思っていた。

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