新たな色
第25話 青の色
なぜボクの物語はベットの上から始まるのだろう...。
絶対安静の重傷状態を抜け、もうすぐ拘束具が外せるかという時に一通の手紙が届いた。なんだか見覚えのある風景に、こんどこそ多額の借金かと震えながら青い蝋を外す。
そこにはサラサラと墨で書かれた綺麗な文字がしたためられていた。
『ネス・クレア
サラマンダー討伐の件について
浅葱家へ一人で緊急招集
家長 浅葱 瑠璃』
なんで名家の手紙はこう短文なのだろう。ラヴァさんは内密な手紙だからだとしても浅葱家からの手紙はきちんと浅葱家の人らしい人が持ってきた。
「サラマンダー討伐って...浅葱家はそこにいなかったのに」
なぜその場にいない浅葱家に呼び出されたのか、全く検討もつかないが断るという選択肢ははなから用意されてないのだろう。
「あの時とは違うんだ...ボクはもうスカーレットの一員ビビる必要なんてどこにも...ん?」
ひらりと二枚目の小さな紙が落ちる。
『追伸
顔を出していただけない場合、ラヴァ・スカーレットとどちらがより優れているかを決めさせていただきます』
はい...行きますよ
なんでこうボクが逃げない方法を知っているんだ。ラヴァさんの天敵の浅葱のしかも家長である瑠璃さんと戦う?
だめだめだめ。武功を積む浅葱はともかく都市の安全を守るラヴァさんに手を出させる訳には行かない。
そういった人同士での戦いは行ってこない浅葱家の事だから瑠璃さんも冗談で言ったのだろうが、もしもを考えると行かない選択肢は消えた。
「今度は浅葱家か...気が重いなぁ」
気が重い程度ですんでいるのは成長の証かもしれない。
松葉杖なしでも何とか歩けるようになったので浅葱家へ向かう。戦争をしている訳でもないし要件がサラマンダーについてなら襲われることもないだろう。
恐らく援軍として向かっていたのにどうやって一人で倒したかを聞かれて解散だ。早いとこ済ませてしまおう
「オ、おはようございます」
「ネス・クレアか入れ」
門の前には長めの棒を持つ守衛らしき人がいたのでボクから声をかける。少し声が裏返った気もするが断じて守衛さんの圧に負けた訳では無い。ゼインさんに鍛えられているのにそんなことがあっては修行が厳しくなってしまう。うん。
ガラガラと壮大な門が開き立派な庭園と極東の低い建築が目に入る。立派な庭には白い石が敷き詰められその中にも大きな岩のようなものがところどころ置かれている。
周りにはこれも極東の樹木のマツ?と呼ばれるものが植えてある他にも色々植わってそうだがそこまで詳しくないボクには全ては分からない。
「この部屋でお待ちください」
「は、はい」
タタミと呼ばれる草で作られた床に敷物を敷いて座る。セイザという姿勢がマナーだと聞いていたが、慣れないことは出来ないもので何だかぎこちなく足を畳む。
シャッと木枠の紙の戸が開き守衛やお世話係さんよりも気品溢れる青い着物をきた黒髪の女性が現れる。ボクより背が低そうとは到底思えないほど風格がある。
ラヴァさんと出会ってなければ一目惚れしてもおかしくない端正な顔立ちは美人と言う他ない。目には深い海のような綺麗な青が滲んでいる。切りそろえられた黒髪ロングは艶っぽくも清楚さを表してくる。
ラヴァさんとは系統の違う美人な女性になぜだか緊張が止まらない。
「ネス・クレア」
「は、はい...」
声も透き通るように綺麗だ。強い色を持つ人は産まれた時点で違うんだなと、なんだか再認識した。
どかっと机の対面に座り話を始める。
「アンタどうやってサラマンダーを一人で倒したのよ。さすがのアタシですらやろうと思ったことないわ」
硬い雰囲気とは裏腹に案外フランクに話しかけてくれる。透き通るような声で親しげに話しかけられるとなんだかドキッとしてしまう。村に同世代の女の子がいなかったネスはラヴァさんとも違う距離の近さに反応してしまう。
「ボクが倒したのは幼体ですし...」
「アンタ、サラマンダーのことなんにも知らないのね。アタシ達が倒すのも成体になる前よ。産まれて手がつけられなくなる前に倒してしまうの」
「そ、そうなんですね...で、でもラヴァさんがほとんど倒してましたし...」
「それもないわね。あの子は火力はあっても一人ではサラマンダーを追い込める技はないわ。援軍要請にゼインを出した時点であの子は防戦必至のはず」
伊達に浅葱の家長な訳では無いようで自分の知っている情報を繋げてボクの言葉が全て本当でないことを見抜く。
三原色としてラヴァさんとも関わりがあるのだろうか、サラマンダーを倒すためにゼインさんが居ないと無理だとはっきりいってのけた。実際ラヴァさんは時間稼ぎをボクに頼んでいたし、サラマンダーを倒すためには溜めが必要なのだろう。
「あの時あの場にいたのはアンタとラヴァだけ、おまけに無色のアンタに前衛が務まるとは思えない。言いなさい、どうやってサラマンダーを倒したの」
「えっと...それはですね...」
ボクの力のことは未だにわかっていない。どれだけ引き出そうとしても透明は反応しなかった。ベットの上で拘束具の中でこっそり試していた。あの時も少量しか引き出せなかったのなら手近なもので試しても暴走する危険はないと踏んでいたからだ。
しかし予想とは裏腹に透明は一滴すら絞り出せなかった。体の中にはラヴァさんに癒されたおかげかまた炉に火が灯っている感覚だけがあった。
力を使いこなせないなら公表するべきじゃない。ラヴァさんがボクの力を見た上でそう言ってくれた。確かに色はこの世界の再重要な要素だ。世界が色づくなんて言うけどこの世界では言葉の通り、自分の色で世界を塗らなければならない。
自分の色で生きる世界を好きに変えられるからこそ、ボクの透明はきちんと理解できるまで隠しておく必要がある。
「アンタがラヴァのど劣化だってことは知ってるわ。出来損ないの赤、それなのにアンタが前衛であの子が赤を溜めれると思う? でも、アタシ達が着いた後どれだけ調べてもアンタ達の痕跡以外なかった。赤二人でどうやって倒したか教えなさい」
とても必死に聞いてくる瑠璃さんの瞳がとても真っ直ぐに澄んでいて隠し事なんてしてはいけない気がした。
「全部は...ボクにも分からないので話せません。けど、ボクにも分かってない色がありました···」
「なによ···それ」
「すみません」
これが今話せる本当のこと。これ以上は不確かな情報しかない。
瑠璃さんははぁとため息をひとつついてガックリと肩を落とす。
「お兄のためになるかと思ったのに⋯」
「おにい? ボクとお兄さんが関係あるんですか⋯?」
「うっさい、赤二人で倒した訳じゃないならもうアンタに用は無いわ。帰っていいわよ」
一瞬本当に残念そうな顔を見せたと思ったらすぐにしっしと手を払う。なんだか名家の令嬢にしては粗雑な印象が拭えない瑠璃さんを不思議に思いながら立ち上がろうとする。
が、ボクは立ち上がれずプルプルと『セイザ』のままで硬直している。
「ぐっ!」
「何アンタこんな短時間で痺れたの? ウケる」
瑠璃さんのように足を崩せば良かったと後悔してももう遅い。痺れた足を動かそうとしたせいでびりびりが止まらない。
「仕方ないわね、あの子のそばに居るなら様々な文化のマナーを学んでおきなさいよ」
「うぎゃ!」
そういいながら指をこちらに向けてくるっと円を描くように動かすと、足のしびれは一瞬ビリッときたがその後綺麗に収まった。
「血流が悪くなるから痺れるのよ。まぁ慣れだけどね、血も水だから流しておいたからもう動けるはず」
「あ、ありがとうございます」
立ち上がれるようになったボクはぺこりとお礼を言って部屋を後にする。
「畳も襖もへり全部踏んでるじゃない⋯スカーレットなら極東のマナーも学んどけっての⋯」
一人残った瑠璃はぽつりと呟いた。
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