第52話 『ノスタルジアの木』

「これは、ヴァンパイアツリー? いや、それにしては色合いが違うような……」


 俺達の様子に異変を感じたのか、拓海も映像を覗き込む。

 しかしその正体が分からず拓海は首を傾げた。


「アダマンタイトクラスの探索者でも分からないとなると、21階層~30階層を統括するモンスターのようね。でもまさか20階層にまで顔を出せるなんて……」

「……ターゲット設定では名前の表記無し。ヒューマンスライムの件から考えると、きっと本体自体はまた別に居るんでしょう」


 金色の管、触角は他の階層を移動する事が出来た。

 おそらくはこれもその一種。パッと見た感じでは、魔石から魔力を吸収しているだけのようだし、あの時よりも脅威は感じられない。

 ただ、階段を利用出来なくされたのはまずいな。


「取り敢えず階段だけ利用出来るようにあれを吹っ飛ばします」

「え!? そんな事可能なの?」


 俺は映像を見ると江崎さんの言葉を無視して20階層に向けて弓を引いた。

 直ぐに到達せずラグが起きてしまうのはどうしてもカッコつかないが、こればっかりはどうしようもないな。


 ――パンッ!!


「本当に届いた……。でも、このモンスターいくら何でも硬すぎるわね」

「会心の一撃は防御力を貫通するはずなんですけど……」


 確かに会心のエフェクトは表示された。

 それなのに木は少し揺れて木の葉を落とすだけ。


「もう一回――」

「『ノスタルジアの木』。あれは耐久力、物理攻撃耐性が高いです。一也さんのような攻撃を完全に攻略済み。……っ痛」

「大丈夫かクロ!?」


 いつものクロの頭痛。

 『ノスタルジアの木』。気になる単語ではあるが、これ以上掘り下げるのは不可能か。

 それにこの様子だと、あれとクロを近づけるのはまずいかもしれない。


「クロちゃんはさっきの戦いで魔力を大量に使っている。一也も今回に限っては役立たず。ここは他の探索者に任せて休め」

「拓海、でも――」

「ここまでブロンズランクの探索者におんぶに抱っこ。こう見えて俺は自分と他の探索者にはらわた煮えくりかえってるんだ。江崎さん、11階層から20階層にパラサイトワームというモンスターがまだ蔓延っている可能性があります。だから戦闘経験のある俺が探索者を引き連れて20階層のあれ、『ノスタルジアの木』の対処に向かいます。だから明日までに水系、氷系のスキルを持った探索者を集めておいてください」

「別にそれは構わないけど……。本当に大丈夫なの?」

「はい。『ライバル』に負けるわけにはいきませんからね。報告に必要な事はまたメールで知らせてください。俺は上で体を休めるので」


 拓海はそう言ってふらふらと体をよろめかせながらその場を去っていった。

 『ライバル』、か。


「まったく。勝手にあれもこれも決めて……。まぁ嫌いじゃないけどね、ああいう熱い男」

「そうですね。それじゃあ俺達も一旦帰ります。買取だけお願い出来ますか?」

「分かったわ。一件落着って事で今日はお開き。一応11階層以降はまだ侵入出来ないようにしておくわ。それで買取査定なんだけど……額が額になるから振り込みはちょっと遅れるかもだけどいい?」

「構いませんけど……査定、もういいんですか?」

「ええ。質は悪そうだけど、大きさだけは立派だから1000万円。用紙にサインだけ貰いたいから窓口に移動させてもらうわよ」

「い、1000万って……」

「あ、あの一也さん、それって凄いんですか?」

「ああ。昨日食べたパフェを朝昼晩1年間毎日食べても余裕の金額だ」

「じゃ、じゃあ、今日はパフェパーティーですか!?」


 クロはさっきまで頭を痛そうにしていたのが嘘かと思えるくらい目を輝かせる。


 甘いものはそこまで得意じゃないんだが……学生時代以来のケーキホール食いでもしてみようかな。

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