第53話 見えるもの見えないもの
「パフェパフェ、パッフェパフェパフェ!」
「何でも買って良いとは言ったが……これ、本当に食べきれるんだよな?」
「食べきれますよ! それを言うなら一也さんだってそんなにそれ食べれるんですか?」
「俺には前例がある。むしろ昔より運動量の多い今の方が食べきれる自信があるぞ」
探索者ビルで買い物を済ませてから俺達は自宅に移動していた。
今日は無礼講だ、とお互い好き勝手に欲しいものを買い込み、クロは自作でデカ盛りパフェ、俺はショートケーキを1ホールを用意して向かい合う。
フードバトルが始まりそうな雰囲気で、俺はどうしても強気な言葉を選んでしまう。
本心はケーキを受け取った瞬間に感じたずっしりとした重みにびびり散らかしているっていうのに。
「いただきます!」
「ふぅ、いただきます」
生クリームが甘過ぎず、苺は良いものを使っているのか酸味が弱い。これは間違いなく美味いケーキ屋のケーキ。
――くどくなく食べやすい、とそう思っていた時があったのだが……。
「うっ……」
「あれぇ。一也さん全然減ってなくないですか? 余ってるならちょっともらっちゃいますよ」
「あ、ああ。好きに食ってくれ」
これが若さ、か。
クロのしたり顔に悔しいと思うよりも先に、若干の寂しさを感じる。
ああ、コーヒーが美味い。
「んんっ! これも美味しいですね!」
「すっごい食欲だな。エルフっていうのはみんな大喰らいなのかね。……あれ、そう言えばあのオーラが出てない?」
前回パフェを食べさせてあげた時に出ていたオーラが見えなくなっていた。
これも力の解放の一端なのだろうか?
「ん、むむむ、もご、まひょくは、かいふふ、しひぇるんでひゅんですけどね」
「……すまん。今のは独り言だ。ゆっくり食ってくれ」
「はひ」
魔力の回復自体はある。
という事は変わったのはクロじゃなくて、俺、いやもしかすると……
『――この場所で今朝探索者でもない一般人が取得したスキルを用いて攻撃。奇跡的に負傷者は居ませんでしたが、その跡は攻撃力の高さを物語っています。現場からは以上です』
『片平アナウンサー、ありがとうございます。続いてはこちらの話題、【新たな遺跡見つかる?】――』
何となくつけていたテレビから流れてきたニュース。
一般の人がスキルを使っての事件はこれが初めて。
まさかそんな強力なスキルを一般の人が扱える様になるなんてな……。
「ん、く……。ダンジョンから漏れる魔力が前よりも空気中に満ちてる気がします。それが原因でスキルを使えるようになる人はこれからもどんどん増えると思います」
「もっともっとか……」
ダンジョンの異変が世の中に変化を与え始めているのはもう誰の目にも明らかになっている。
このまま正常化が進まなければダンジョンと地上の違いが無くなっていき、物語に出てくる異世界のような世界になってしまうのだろう。
……恐らくクロのオーラが見えなくなったのは魔力の満ちた環境にそのオーラが適応して、空気と同化したからだろう。
同じ様に魔力が満ちたこの環境で見えなくなるもの、反対に見える様になるものもこれからは出てくるのかもしれない。
「正常化を急がないとな。……。あ、クロ。頬にクリームが付いてるぞ。拭いてやるからじっとしてろ」
「あ、え、だ、大丈夫です! これくらい自分で拭きますから!」
「いいからじっとして――」
――コン
俺がクロの頬を拭いてやろうとした時、窓が不自然に鳴った。
何か叩きつけられた様な音だったが……。
「まさか泥棒か?」
恐る恐る半開きだったカーテンを開けると、そこには驚く表情の朱音が。
なるほど、気付きたくないものが見えるというのは恐ろしいものだな。
「あ、朱音さん!」
「ご、ごごご機嫌ようクロちゃん……」
「ご機嫌よう、朱音。どうする警察まで行くか? それとも警察に来てもらうか?」
「わ、悪かったとは思ってるわ。で、でもその前に話を聞いて欲しいんだけど……駄目、かしら?」
「駄目だ」
「ご、ごめんなさい! ごめんなさい! 謝るから警察だけは止めてぇええええっ!」
「はぁ……。分かった。ちょっと待ってろ」
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。