第51話 証拠は
「これで最後ね? はぁ……。念には念を、でプラチナランクの探索者を遣わせたっていうのに全滅なんて想像もしてなかったわ――」
「担架急げっ! 外傷は見られないが、どの人も意識不明! 一分一秒でも遅れればどんな後遺症が残るかわからないぞ!」
ダンジョンの出入り口で待っていた医療班の人達が急いで11階層~20階層で倒れてしまった探索者達を運ぶ。
その姿勢こそ素晴らしいが、医療班の人達は戦闘に関してはまるで向いておらず、決してダンジョンに入り込めない。
だから……
「戦闘が可能な人間でダンジョンから運び出すのはしょうがないけど、私まで駆り出されるなんて……。あー古傷が開いてきたかも。ねぇ飯村君、ちょっとここ擦ってくれない?」
「江崎さん、またそうやって――」
「それなら私がリジェネを掛けてあげますよ!だから一也さんはお友達と休んでてください!」
「別に俺と拓海はお友達じゃ――」
「休んでてください!」
「はい」
まだまだ探索者が戻ってきていないのか、わざわざ江崎さんが探索者達をダンジョンから地上に運ぶ手伝いをしてくれていた。
クロのスキル『ワープゲート』も強化はされたが、それは階段の位置を把握出来なくても、今解放されている階層なら移動出来るというレベル。
だから俺達のいた階層から1階層までを繋げ、江崎さんには1度俺達の居た階層まで来てもらって、そこから地上まで運ぶのを手伝ってもらったってわけだ。
女性に手伝ってもらうにはかなり力のいる内容ではあったものの、こうして冗談を言う余裕もあれば、嫌がる様子もなく率先して手伝ってくれた。
怪我さえなければ本当に探索者が天職の人なんだろうな。
「ありがとうねクロちゃん。それで取り敢えずは落ち着いたみたいだから11階層~20階層までの探索内容の報告をこれから2人に聞いてもいいかしら?」
「俺は構いませんが……」
「俺も大丈夫です。クロちゃんのリジェネで身体も楽になっているので」
「そう。助かるわ」
1度会っているとはいえ、クロに対する接し方は流石年の功と言ったところか。
拓海の体調も良さそうで報告自体は問題ないのだが、如何せん今回は遠距離で統括するモンスターを討伐しているからその証拠がないのが心配の種だな。
「まずは統括モンスターの討伐、これはもう済んでるって事でいい?」
「はい」
「証拠、その時の魔石とかってある?」
「それがその、ちょっと倒した方法が特殊で……」
「やっぱりねぇ。遠目からでもその魔石がただモンスターを倒して手に入れただけのものじゃないってのは分かってたのよ。まぁそれだけのものを買い取れたとなれば、私たち的には給料アップ。夕飯のおかずが一品増えて嬉しいんだけどね」
俺が右脇に抱えていた魔石を見ながら江崎さんはふっと息を吐いた。
「証言者による証明は報告者を除く3人以上が必要だからクロちゃんと拓海君だけじゃ足りな――」
「統括モンスターの魔石なら私が映像を出せますよ!」
ここぞとばかりにクロが胸を張って食い気味に話に割って入ってきた。
力が解放された事で数だけではなく、地上からダンジョンを覗く事も可能になったらしい。
「――ほらほら見てください!これが20階層で、視点もこうやって動かせるんですよ!」
「へぇ凄いじゃない! それで魔石は――」
誰かが返事をする暇もなくクロは20階層の映像を映し出した。
江崎さんは子供を誉める時の様にそんなクロの頭を撫で、映像を眺めた。
すると突如和気あいあいとした空気が消えた。
もしかしてまだ統括モンスターが残っていたとか?
「いや、そんなはずはな――」
俺も江崎さんに続いて映像を覗き込むと、そこには『厄憶蝶』がドロップさせたであろう巨大な魔石に絡まる階段の奥の方から伸びる大木が映し出されていた。
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