第49話 一也さん

「ん、ぐ、ぅぅぅっ!」

「一也っ!?」

「殺、す。それで、私も……。これでいい。これがいい」


 訳の分からん事を口にしながらクロは確実に俺を殺そうと力を込める。


 そんな俺に視線を向ける拓海は防御スキルを発動させながら外にいるモンスターの相手をしているから、助けとして期待出来ない。


「ぐぅぅぅぅううううううっ!!」

「暴れると余計に痛い、です。痛い、よ。一、也さん」


 ここは自分だけで解決しなければと思い、身体を無茶苦茶に動かすがそれでもクロの手は外れてくれない。

 クロってここまで力があったのか?


 こうなればクロ自身を攻撃するか? 確かクロは耐久力に関しては自信があるって言ってたような気もするし……。


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ターゲット設定

現在自動選択

飛攻撃スイッチ【ON】

■手動選択

・●●クロ

・拓海

・パラサイトワーム

・イビルワーム

・厄憶蝶

■選択無し

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 クロを攻撃しようかと頭を悩ませながら俺はターゲット設定を開いた。

 クロの名前に変化が見られるが、これは……。

 

「一、也さ――。飯村、さん。ごめんな、さい」


 いつもの呼び方に戻るクロ。

 その手は震え、クロが何か自分の中で何かと葛藤しているのが見てとれた。


 こんな状態のクロを攻撃なんて……俺には出来ない。

 だから息が続くうちに厄憶蝶を殺すしかない。


『魔力弓再具現化、魔力消費100。転移弓、発現』


 確か魔弓は消費魔力に対して攻撃のバフがかかったはず。

 その効果と転移弓の効果が重複する可能性に賭けて、『厄憶蝶』を対象に弓を引いた。


「!?」

「いっ、たぁ」


 大量の魔力を消費したからか、それとも魔力弓が当初よりも強化されているからか、今までとは比にならない程の勢いで飛び出た矢の反動でクロごと俺の身体は吹っ飛んだ。

 腕には痺れを感じる。まさか魔力弓にこんなデメリットが存在するなんて。


「う、ぅぅ……」

「もうちょっと、もうちょっと……」


 2射目を放つ程の余裕は既に俺にはなく。

 弓と矢を持った腕を地面につけ、視界に白い靄がかかる。


 駄目だったか――


『レベルが265に上がりました。ステータスポイントを10獲得しました』

「ぷっはああっ!!」


 レベルアップのアナウンスと共に晴れる視界、身体を巡る新鮮な空気、どうやら俺の放った矢が『厄憶蝶』を捉え殺してくれたらしい。

 クロの力が急激に弱まったのもそのお蔭。


「危機一髪だったな」

「……。その、ごめんなさい。私、また思い出せなくなってしまったんですけど、この手が一也さんの事を襲った事は覚えてて……」

「モンスターの所為だ。気にするな。それよりその、一也さんって……。クロ、お前やっぱりまだ……」

「え? 私今飯村さんて言いませんでした? あれ? なんか違和感が……」

「なら、一也さんでいい。なんなら呼び捨てでも構わない。見た目的に年齢にそこまで差はないはずだ」

「おい一也!! そっちの仕事が済んだなら今度は周りの奴らをどうにかする手伝いをしてくれ――」


『ダンジョン11~20階層までを統括するモンスターを討伐しました。11~20階層までのモンスターは全て正常な状態で出現するようになりました。21~30階層のモンスターを統括するモンスターが出現。20階層の階段を利用可能にしました。サポーターとの親密度が上昇しました。サポーターの力が一部解放されます』


 ダンジョンの正常化を知らせるアナウンスが頭の中に流れた。

 それを聞いたクロは曇った表情から一変、ぱあっと明るくなる。


「や、やりましたね一也さん!」

「ああ。だが、親密度って……」

「いいから、お前らは目の前のモンスター達に目を向けてくれ!」

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