第43話 かっこつけ
「拓、海?」
体内のパラサイトワームがいなくなったからか、先程に比べてスリムなったその身体。
頬はこけていて、目は赤い。
「う、ぅ……」
拓海は突然立ち止まる。すると腹の辺りからボコボコと音がなり、折角スリムになった身体は再び膨れ上がった。
きっと俺が殺した分のパラサイトワームが卵から孵ったのだろう。
今ある情報を整理すると、拓海は体内のパラサイトワームを孵化しても収まるだけの数に調整、その上でモンスターを食ったパラサイトワームから卵を回収して保管する。
保管した卵は必要分だけ取り出し、探索者の体に移す。そうする事で探索者の体内のパラサイトワームをもし殺されてもすぐに卵が孵化して再寄生。
この孵化のタイミング調整は拓海がしているのか、それとも卵の元の機能なのか、パラサイトワーム或いは他のモンスターによるものなのかは謎。
そもそもあの拓海があれだけの数のパラサイトワームを身体に宿す事になった原因も不明。
11階層から20階層を統括するモンスターが拓海だけにパラサイトワームを複数寄生させるメリットもないだろうに。
「う、が……」
「う、うう……」
身体が再び膨れて苦しそうにする拓海の元に探索者達が群がる。
そして、ヘルマンティスの時の様に口を開く。
今度は卵を吸い出すのではなく、卵を移してあげるのだろう。
「う、あ……」
案の定、拓海は最早人の物ではなくなっている長い舌を探索者の口にそっと伸ばす。
その舌先には水色の何かに包まれた卵が3つ。
やはり孵化に関して細工がしてあるようだ。
「あの長い舌。何故かパラサイトワームに食べられはしていないものの、形状がパラサイトワームの都合のいいものに変わりつつありますね。早く助けてあげないと取り返しのつかないことになるかもしれません」
「ああ、分かって――」
「うが、がががああああっ!!」
今さっき拓海に卵を貰った探索者が雄たけびを上げた。
そして、その口からは成長し、人の顔を模したパラサイトワームが姿を見せる。
俺は急いで攻撃を仕掛けようとするが、それよりも早く拓海が動いた。
「う、ぐ、……させない」
拓海は一瞬人間の言葉を呟くと、探索者の口に手を突っ込みパラサイトワームを引っ張り出す。
仲間同士で攻撃する事が出来ないからなのか、拓海はそのパラサイトワームを無理矢理自分の口に突っ込み、飲み込んだ。
拓海の身体が一層大きくなると、俺の頭に助けた女性探索者の『また』という言葉が思い出される。
拓海はパラサイトワームに食われそうになる探索者を助ける為に無意識に近い状況でそれを吸い出している?
そして、その時の光景をあの女性は何故か覚えていて……『また』というのは自分達を助ける拓海のこの行動を俺達が深い階層に行き、パラサイトワームに寄生される事で『また』させてしまう恐れがあるという意味の『また』なのでは?
「拓海お前、いつもつんつんしてぶっきら棒なくせにこんな時ばっかり格好つけて……そんな事して死んだら、朱音が悲しむだろっ!」
俺は身体の傷がまだ治りきっていない状態ではあるものの、転移弓に切り替えて魔力弓をストック分全て放つ。
モンスターは全滅。探索者達と拓海は次の卵がすぐに孵化、再寄生される。
探索者達が繰り出すスキルにクロが対応してくれはするが、それでも俺のHPはゴリゴリ減らされ、立っているのもままならなくなるが、それでも俺は弓を引く事を止めない。
「――う、ぐぐぐぐああああああっ!!」
探索者達のパラサイトワームをごり押しで殺しきると、最後に残った拓海が満を持して突っ込んできた。
「くっ!」
「避けろクロっ! その身体で受け止めきれるわけがない!」
俺を庇う様にクロが両手を広げて拓海が迫ってくるその進路に立ち塞がる。
必死に弓を引くが、拓海はもう自分の身体のパラサイトワームが増えたり減ったりしても何も反応してくれない。
「う、あああああああああああっ!!」
「い、飯村さん?」
これが火事場の馬鹿力ってやつなのか、何とか動いた足で俺はクロの前に立ち、そのままもたれる様にその身体を両腕で包み込んだ。
あくまでサポートしてくれる存在でしかないクロに対してこんな事……でも、不思議と後悔はない。
「うあっ!」
次の瞬間俺は走馬灯を見る間もなく、全身に激痛を走らせた。
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