第42話 見覚え
「なら何度でも――」
「『刺棘(とげとげ)』」
倒れない探索者達に向かって弓を引こうとすると、探索者の1人がスキルを発動し、俺の足下から茨が生え伸び始めた。
脚を伝って巻き付く茨が身体に食い込み、細かい棘が突き刺さる。
だがこれを外す事に時間を費やせば相手の思う壺。
接近戦に持ち込まれ、弓を引く余裕を失えばあっという間にHPは削り切られるだろう。
「ぐっ……。痛いが……射つぞ、俺は」
腕を動かす度に更に食い込む茨。
俺は歯を食い縛りながらその痛みを堪えて、弓を引いた。
――パン!
パラサイトワームが爆ぜた音は確かにする。
しかし探索者達は倒れない。
「う、が……」
「攻めて、来ない?」
一連の流れから探索者達が一気に距離を詰めようとすると思い身構えたが、探索者達は一斉に後退を始めた。
――ブオン
「飯村さん! 大丈夫ですか!? リジェネが直ぐに効くとは思いますけど、念の為自分でも回復をしてください! 私はこれを断ち切ります!」
探索者達の行動に安堵していると、俺の異常に気付いたのかクロがわざわざワープゲートを使ってここまで来てくれた。
という事はクロは下り階段の場所が分かっているらしい。
「助かった。ありがとうクロ」
「お礼はいいですから早く回復してください。私が誘導してたモンスターも飯村さんが相手をしていた人達も事を終えたら直ぐに襲ってくるはずです」
「事を終える?それってどういう事だ?」
「向こうを見てください」
クロが人差し指で示した先にはさっきまでは居なかった筈の大きな男性が。ここからだと顔ははっきり見えない。その体格的に俺の知らない人物なのは間違いないだろう。
それによく見れば草陰に少し窪みが見える。
階段の入り口。
きっとクロは男性が現れるのを発見した事で階段の在りかを――
「ギ、ギギ」
クロが誘導していたモンスターの内の1匹であろうヘルマンティスがいつの間にか男性の側まで移動を完了させていた。
しかもその口を大きく開き、捕食する体勢。
寄生された同士は争わないと思っていたが、そうではないのか?
「ギギ……アガッ!!」
「え?」
みすみす男性が食われるのを待つわけにはいかない。
そう思って観察を止めて弓を握った次の瞬間、男性はヘルマンティスの口をがっちりと掴み、無理矢理拡げ、そしてその中に顔を突っ込んだ。
じゅるじゅると何かを吸い出すような音がここまでうっすらと聞こえる。
「あれは一体何をしてるんだ?」
「孵化しないように卵を体内に取り込んでるんだと思います。あの人のあの膨らんだ身体は卵を体内で保管しているからじゃないでしょうか。あの人にはきっとそれが出来るのでしょう」
「だとしても、それをするメリットはないだろ」
「これも推測でしかないんですけど……。飯村さん、さっき矢を射っても射っても倒れない人達がいましたよね?多分あれ、飯村さんのような攻撃の対策用、更にはパラサイトワームをある程度まで成長させる器として保管した卵を何個か他の人達やモンスター達に移しているんだと思います。しかも、寄生していたパラサイトワームがいなくなると同時に次が孵化するように細工をして」
「そんな事出来るとは到底思えないが……」
「ですけど実際、飯村さんの攻撃を受けても倒れませんでしたよね。あの人が凄いのか、それともあの人に寄生するパラサイトワームが凄いのか、そこまでは分かりませんけど……」
「まぁどっちにしろ、脅威は直ぐに排除だ」
――パンッ!
弓を引いて初撃が命中。
ヘルマンティスが飛び散り、男性の身体からも小さく音が鳴って――
「全然鳴り止まないだと……」
『レベルが210に上がりました。ステータスポイントを20取得しました』
男性の身体に住み着いていたパラサイトワームの数が異常だったのか、俺のレベルは一気に上がった。
「それにしても卵から孵化した奴は何で体内に留まっていたんだ? それになんで卵の保管と移転なんて面倒な役割を率先して……」
「う、あ?」
流石に攻撃された事に気付いた男性は俺達の元に近寄り始め、俺の目には見覚えのある顔が飛び込んできた。
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