第41話 死んだはずなのに
「何が『また』なんだ? それにあの人っていうのは――」
「飯村さん、この人はまた意識を失ったみたいです。きっと私の言葉に反応して意識を朦朧とさせながら注意してくれたのでしょう。とにかく安全な場所に移動させてきます。ちょっとだけ待ってて下さい」
クロは一瞬だけ意識を取り戻した女性を担ぎ上げてワープゲートを通り抜けた。
「拓海の状況が聞きたかったとはいえ……。俺、自分が思う以上にあいつの事を心配してたのかもな」
配慮に欠けていた行動に反省すると、俺は次の階層への階段がないか辺りを見回す。
すると遠くに再び探索者の影が。
ただ俺達の行動を見て恐れたのか、そそくさとその場から離れていく。
そして探索者は突如として消えた。
あれはつまりこの階層から移動した事を意味する。
「――戻りました! あの人はあんな事言ってましたけど、パラサイトワームが増えて、万が一外に出たら大変です。さ、早く先へ――」
「こっちだ。付いてきてくれ」
「え? え、ちょ、ちょっと!早くって言いましたけど、やっぱりちよっと待ってくださーい!」
あれを追えば急ピッチで階層を下れるかもしれない。
俺はクロに申し訳なさを感じつつも消えた探索者を走って追いかけるのだった。
◇
「はぁはぁはぁ、すみません、私、限界かもです」
「はぁはぁはぁ、はぁ、はぁ、お、俺も……流石にずっと走りっぱなしはヤバいな」
現在17階層。
俺達が追いかけていた探索者は突然脚を止めた。
ここまでスピードこそないものの脚を止める事はまるでなく、息も乱れなかったのだが……。
それにしてもパラサイトワームに寄生されると疲れや痛みは感じないのかもしれない。
さっきの女性探索者がパラサイトワームから解放されても意識を失ってしまったのは寄生されている時の無理な動きによる反動なのだろう。
「でも、ここまで他に寄生されている人がいなかったのは助かりましたね」
「そうだが……それがずっと違和感ではあ――」
「ぐああああああああっ!」
遠目で探索者の様子を窺いながらクロと会話をしていると、探索者は唐突にモンスターに似た大声で叫んだ。
そしてそれに反応するように辺りから大量のモンスター、それに探索者も10人程。
どうやら俺達はこの探索者にここまで誘い込まれたらしい。
「『リジェネ』、『エレメンタルシールド』。回復と属性ダメージ軽減のスキルを発動させました。背後のモンスターは私が近づけないようにするので、まずは正面からガンガン射って下さい」
「助かる」
『魔力矢、魔力消費50。魔力弓、魔力消費40。転移弓』
「こっちです! やぁああああああ!」
クロが走り出したのを合図に俺は転移弓で見える範囲全てのモンスター、それに探索者に寄生するパラサイトワームに対して弓を引いた。
――パン! パンパンパンパンパンパンパンパンパンパンパン……
雨の様に注がれる矢はモンスターの爆ぜる音を奏でる。
前方のモンスター全員が俺に向かって来てくれてる事もあって、前列に群れていたモンスターは自身に矢が届く前に衝撃波で死亡してる個体もいる。
大虐殺が始まり、後ろに控え、まだ矢の対象になっていない為生き残っているモンスターの中には後退を始める個体や、子孫を残す為か卵を吐き出そうとする個体が現れ始める。
俺は前列を粗方処理しきると、卵を吐き出そうとする個体を転移弓でまずは狙い射ち、その周りを殺す。
「飯村さん! こっちにもヤバイのが!」
「分かった」
クロも卵を吐き出そうとする個体が分かったのか声を駆けながらいつの間にか距離を縮めていたモンスター達を上手く誘導してくれる。
今の俺ならこの数でも怖くはな――
「『旋風裂刃』」
「なっ!?」
「飯村さんっ!」
その時俺の周りには凄まじいつむじ風が巻き起こり、俺の身体を風が刃の如く襲い掛かってきた。
完全に切断されてしまう程の威力はないものの、包丁で手を切ってしまった時程の切り傷が全身に10箇所以上。
痛い。だがそんな事よりも何故こんなスキルが相手側から発動されたのかが分からない。
初めのうちに探索者のパラサイトワームは処理したはずだぞ。
「もう1回狙って……。何でだ……。中のパラサイトワーム、死んだはずだよな?」
再び探索者達に住まうパラサイトワームに向けて矢を放つが、今度は探索者達に横たわる様子やよろめく様子すらも見られなかった。
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