第44話 お前は強くなった

 波紋が広がるようにゆっくりと身体に走る痛みは鈍く重い。

 背中に感じる拓海の手の感触。そこから流れ込むように何かが流れ込んでくる様な感覚がある。

 表面へのダメージではなく内部に直接ダメージを与えるスキルを拓海は発動させているのだろう。


 無防備な相手への攻撃ならもっと派手でダメージを与えられるスキルがあっただろうに……。

 万が一を考え、確実にダメージを与えられるスキル選択する辺りが拓海らしいと言えば拓海らしいが。


「――飯村さん! 血がっ!」


 何故か口から零れた血がクロの頬に垂れた。

 クロの泣き顔……。俺はそんなクロの涙を震える手で拭き取り、無理矢理笑った。


「大丈夫、だ」

「な、んで……。――うぐあああああああっ!!」


 拓海は俺が倒れない事に疑問を浮かべながら背中に当てていた手を離す。

 そんな拓海と向き合う為に俺はクロから手を離して急いで振り返った。


 振り上げられた拓海の手が再び俺を襲う。

 俺が倒れなかったという誤算が拓海の気持ちを焦らせて、攻撃は単調。

 その手首を掴んでスキルが発動される前に攻撃を止めるのは容易かった。


「なっ!?」

「弱くなったな、拓海。いや……俺が強くなったのか」

「う、かず、一、也ぁああああああああああっ!! ――うぐっ!」


 叫び声を上げた拓海の腹に俺は蹴りを喰らわせると、うつ伏せ状態になった拓海の上に乗った。

 そして、両手が空いた状態を作ると俺は大量の魔力を消費して魔力矢と魔弓を発現。


 ほぼゼロ距離で俺は拓海の中に巣食うパラサイトワームを射殺、そして大量の卵が孵化するのを待ち、またそれを射殺。

 拓海に巣食う異物を全て消し去る為に俺は時間をかけて弓を引く。


 膨れたり縮んだりする拓海の身体には相当な負担が掛かっているだろうが、助けてやるにはこれしかない。


『レベルが215に上がりました。ステータスポイントを10獲得しました』

『レベルが220に上がりました。ステータスポイントを10獲得しました』

『レベルが223に上がりました。ステータスポイントを6獲得しました』

『レベルが226に上がりました。ステータスポイントを6獲得しました』

『レベルが229に上がりました。ステータスポイントを6獲得しました』

『レベルが231に上がりました。ステータスポイントを4獲得しました』

『レベルが233に上がりました。ステータスポイントを4獲得しました』

『レベルが235に上がりました。ステータスポイントを4獲得しました』

『レベルが237に上がりました。ステータスポイントを4獲得しました』

『レベルが239に上がりました。ステータスポイントを4獲得しました』

『レベルが240に上がりました。ステータスポイントを2獲得しました。スキル:転移弓が強化されました』……。


「――はぁはぁ……。やっと、終わったか?」


 レベルが260を超えるまで弓を引き続けると、遂に拓海の身体が膨らまなくなった。


「――う、あ……。一、也」

「拓海、正気に戻ったか」


 目の色が元に戻った拓海は俺の名前を呟く。

 拓海が元に戻ったと判断した俺は馬乗りを止め、そっと拓海から距離をとった。


「まさか、お前に助けられるとはな……」

「拓海、身体は大丈夫か? というかその言い方……もしかして寄生されていた時に意識が――」

「朱音が悲しむという言葉を聞いてからは割と鮮明だった。ただ身体の制御はまるで出来ていなかった……。一也、お前の言う通りだ。俺は弱い、それで……お前は強くなった」


 解放された拓海から漏れた言葉に遂胸が熱くなる。

 まさか拓海にこんな言葉を投げてもらえる日が来るなんて。


「それにしても拓海が寄生される程のモンスターって一体……」

「別に強いわけじゃない。ただあの部屋にはパラサイトワームが大量に……。それでも、いつもならいなせない数じゃないんだが……。ちょっと隙を突かれてな。あいつはモンスターを、パラサイトワームを操作する為に記憶を覗き、干渉出来るんだ」

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