第33話 同居

「おっと……。ちょっと待ってくれ、その続きは飯を用意してからにさせてくれ」


 俺は慌てて火を止めて、カレー2人前を用意してリビングテーブルに持っていく。

 嫌いな人間はいないだろうと思って安易にカレーを用意してしまったが、異世界人の味覚ってこっちとは違う可能性も……。いや、その前にエルフって食べられるものが決まっていたような……。


「……いい匂いですね」

「カレーって言ってな、何種類ものスパイスを使った料理なんだ。口に合うか分からんが、良かったら食ってくれ。あ、あと一応牛の肉が入ってるんだが……」

「さっきのパフェも『ウシ』の乳が使われていましたね。こちらの人間は食用に他の生き物を育てる技術が高いんですね」


 そういえば、まったく警戒せずにパフェを食べていたな。

 思えば俺達の知っているエルフは想像の生き物でしかない。実物と違うのは当たり前か。


「それで『贖罪』ってのは?」

「……攻略後、ダンジョンを転移させるにあたって宗教的な思想でそれを反対する人達が現れまして、それで大きな争いが起きたみたいなんです」

「争い……。戦争か?」

「はい。そしてその宗教的な思想を持っていた集団を率いていたのが我々エルフの仲間の1人だったようで……。結局戦争に敗れはしたみたいなんですが、ダンジョンを転移するという大罪を犯した自分達が出来るせめてもの『贖罪』という事で私は転移後の世界の助けとなる為にダンジョンで凍結。転移後の世界で危機が訪れるその時まで眠らせられていたというわけです」

「だったら普通そのエルフがその役目を担うんじゃないのか? わざわざクロがこんな事をする必要はないだろ。もしかしてそのエルフって……」

「いえ、私はそのエルフ本人ではありません。何故私が選ばれたのか、そこは思い出せませんが、私が他のエルフに比べて補助系スキルを複数所持していた事が大きいと思います。知識として頭に残っている事も多いですし、スキルの研究を専門にしていたのかもしれないですね」

「とはいえ、俺ならそれで納得は出来ないけどな」

「もしかしたら私も抵抗したのかもしれません。ただ、こうして信じられないくらい美味しい物が食べられるのは役得かなって思います。……んー! これも美味しいですね。ちょっと辛いですけど」


 クロは話が暗くなり過ぎないようにか、明るい表情でカレーをかき込む。


「異世界に戦争、ダンジョンの進化。この辺りは全部江崎さんに報告。……となれば今後はダンジョンの正常化を図る為に探索者は総動員でこの事態を解決に導く為に動く事になるか。ダンジョンは込み合う事になりそうだな。はぁ、せめてこの家からダンジョンに直通でいけたら楽なんだが」

「そうですね。私としてもダンジョンの様子を逐一チェックしておきたいというのと、この家で暮らしたいっていうのがあるので、そうなれば便利なんですけど……」

「そうだよな。だけど、地上でスキルなんて……。え? 暮らす?」


 クロの思いがけない発言に一瞬思考が飛ぶ。


「はい。見た所家には飯村様だけの様ですし、お家も広いので問題ない、ですよね?」


 カレーを頬張りながらおねだりするクロ。

 確かに両親は早くに亡くなっているし、兄妹もいない。

 残されたこの家は1人で住むには広すぎる。

 だからって会ったばっかりの女性と一つの屋根の下なんて……。

 というかクロの奴、どれだけこの家が気に入ったんだ


「……悪いが、それはちょっと――」

「『ワープゲート』」


 ――ブオン


 唐突に現れたワープゲート。

 そういえば地上でもスキルが使えるようになっているってSNSで言ってたか。


「やっぱり……。こっちの食べ物で生み出された魔力だけを使うと、私の場合発動されたスキルの性質が異なるみたいです。因みにこの今生み出した『ワープゲート』は永続な代わりに、自分の家として認めた場所と場所だけを繋げられるようです。しかもその場所でしか睡眠で魔力を回復させてあげる事が出来ないみたいです」

「自分の家……」

「えっと……恐ろしい事に深層意識の中でもうここが自分の家だって思っちゃってるみたいで……。あの、このゲートを自由に使って頂いて構わないので……お願いです。ここに住まわせてください! あの冷たくて何もない場所で寝て過ごすのはもう嫌です!」

「……まったく困った事になったよ」


 俺は頭を下げるクロの姿を見てふっと息を吐くと、意を決して仕方なく首を縦に振ったのだった。

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