第32話 ダンジョン進化

「凄いのはいいがあんまり目立つのは良くないな、それ」

「はひ」

「まぁ、クロの魔力がこんな事で回復するなら有難いけどな。多分あのワープゲートとかそういったものもかなりの魔力を使うんだろ?」

「んっ。ぷふぅ。……。はい。正直なところ復活用の魔力をちょっと流用しないといけないくらいには魔力不足だったので助かります。ただ私がこうやって簡単に魔力を取り込めるような世界という事は……」


 ようやく家に着いた俺は、クロを招き入れて飯の準備をしながら話をしていた。

 クロはパフェを食べ終わると口の周りに生クリームを付けたまま、神妙な顔を見せる。

 本人はいたって真面目なんだろうが、俺から見るとどうしても緊張感に欠ける。


「という事はどうなるんだ?」

「余計にモンスター達が外に出たがって、イレギュラーを起してしまうのではないかと……。本来ダンジョンの階段はモンスターが通れない仕様になっています。それはモンスターを自然発生させる為に必要なデメリットで、それを解消する為にはダンジョンが進化する為の時間経過が必要……つまりは今起きてる異変というのはダンジョンの進化が進んでいるという事。それがフェーズ2の意味です」

「モンスターが自由に地上を行き来、か。ただそれはさっきヒューマンスライムを倒した様に各階層を正常化すれば止められるんだろ?」

「はい。ダンジョン全200階層を正常化すればそれは防げます。ただそれでもダンジョンの進化は再びフェーズ1からスタートするだけ。時間経過でまた同じような事が起こります。だから、それを引き起こさないように完全にダンジョンの攻略をしようと私の元居た世界では躍起になっていたようです」

「ダンジョンを攻略すると願いが1つ叶えられるから、か?」

「はい。よくご存じですね」

「風の噂でそんなのが出回っててな。まぁそんなの信じてるのは朱音くらいだと思うが」

「そうですか。であれば朱音さんにそれは本当だったと伝えてあげてください。今回のダンジョンの異変、進化を止める為には深い階層に向かう為のモチベーションも重要だと思いますから」

「そうだな。伝えておく。それで話の続きだが、クロの居た所の人達はダンジョンを攻略したんだよな? だから、『そっちの世界』から『こっちの世界』にダンジョンを移した」

「お気づきでしたか」

「エルフってのはこっちでは異世界を代表するような種族、まぁそれでもそんなことはないと思ったんだが……」


 色々な情報を得た状態のクロがここに来て世界という言葉を使うようになったから鎌をかけてみたが、図星か。


「私達、飯村様達からすれば異世界人なんて信じられないものであり、混乱させてしまうかなと思っていたんですけどそれは杞憂だったみたいですね」

「そもそもダンジョン何ていう存在に足を突っ込んでる俺達探索者が今更異世界とか言われてもそんなに取り乱す事はないと思うぞ。勿論マスコミ連中は別だが」

「私も何となく大丈夫かなって……。不思議ですね、飯村様相手だと遂、気が緩んでしまいます。ここも何故だか落ち着きますし……。あっ、こ、これは……。もう気が緩むって言ってもここまでは流石に品が無さ過ぎです、私」


 クロははそっと口元に手を当てるとその生クリームに気付いたのか、赤面する。


「ほらこれ使ってくれ、それでダンジョンを攻略してこっちにダンジョンを移したのは分かったが、なんでクロがあそこに閉じ込められていたんだ?」

「それは、『贖罪』らしいです」


 再びクロは神妙な顔つきを見せる。

 今度こそ緊張感が伝わると、俺は解凍する為に火にかけていたカレーを少しだけ焦がしてしまうのだった。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る