第34話 ニュース
それから俺はクロの部屋を用意。
生活用品を買い足して、クロの服なんかもネット注文。
依頼の正式な報告書を作成。提出。
そんなこんなですっかり疲れ就寝。
クロは俺の作った肉じゃがを食った事もない癖に懐かしい味だと言ってたらふく食うと俺より早く寝てしまった。
女性と2人で生活するなんて大変な事になってしまったが、その日の内から案外馴染めてしまったのが不思議だ。ただ朱音達にこれを言ったらどういう風にいじられるか分からん。
だから同居について秘密にしておこうとクロと約束をして、今日もダンジョンに向かう予定だがそれは撤回して……。
「ん……。いや、今日はもうダンジョンに行かないなんて選択肢もあるか」
「あ、やっと起きましたか? おはようございます飯村様、じゃなくて飯村さん」
起きた頭でぼんやりと思考を巡らせていると、再び睡魔が襲い掛かる。
いっその事その睡魔に負けてみようかと、葛藤しているとそれをさせまいとクロの声が響いた。
飯村さん……。そういえば、一緒に暮らすのだからと他人行儀過ぎるのは良くないと俺が様で呼ぶのは止めようと提案したのだった。
「あ、ああおはようクロ。……てなんで俺の部屋にいるんだ?」
「あの、何というか一人で寝てると氷の中に閉じ込められている事を思い出して……。迷惑、でしたか?」
「迷惑じゃないが……。はぁ、この事も朱音達には絶対言わないでくれよ」
「は、はい。よく分かりませんが、分かりました」
クロは男女間のそういった事に疎い様で、昨日もなんで秘密にする必要があるのかと問いただしてきた。
結局納得したのかどうか分からないまま、ほぼ無理矢理約束させてしまったが……やっぱり分かってなかったか。
「あ、そういえばさっき『テレビ』で飯村さんが出てましたよ。本当にすごい技術をお持ちなんですね、あのテレビという物を作った方は。あの一瞬のシーンがあんな風に忠実に映し出されるなんて」
「テレビ、俺が? ……うわ、マジか」
クロの言葉にハッとして俺はスマホアプリからニュースを見た。
『1階層から10階層の解放!! ダンジョンの異変を解決するのはブロンズランク探索者!?』
『エルフは存在した!? 超絶美女のエルフと去っていくブロンズ探索者!』
色んな新聞社のネット記事がまとめられたそのアプリの表紙には俺とクロの写真がでかでかと……。
コメント欄はクロの見た目に対するコメントが多く、俺については現代の英雄、或いは王子様気取りのおじさんと好き勝手なコメントが乱雑している。
探索者の生存については未だ探索の完了している階層が少ない為、正確な情報はお伝え出来ないと朱音がコメントをしてくれたようだ。
朱音、淳、彩佳の明らかに疲労している写真から、ダンジョンの異変がどれだけ恐ろしいものになっているか読み取った人も多く、意外にも批判コメントは少ない。
「それに直ぐに他の高ランク探索者を11階層以降に侵入させるところを見せたのか……。やっぱり江崎さんもやり手だよな。というかそんなに高ランクの探索者が向かえば早期正常化の可能性もあるかもな」
「そうですね。地上からじゃ様子は窺えないので、準備をしたら早速私達もダンジョンに移動しましょう」
「私達……いや別に行く予定ではあるけど」
いつの間にか一緒に行動するのが当たり前みたいになっている。
まぁ本来クロは人間のサポートが仕事なんだから当たり前と言えば当たり前なんだが。
「はい。ご飯を食べて準備して早く行きましょう。そうご飯を食べてから!」
「クロ、お前早くダンジョンに行きたいんじゃなくてただ、早く飯を食いたいだけなんじゃ――」
――ぐぅぅぅぅううううぅぅぅぅ
特大の腹の音が響くと俺はやれやれと飯の準備をするのだった。
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