第23話 ボス階層
「淳っ! くそっあいつ……」
「彩佳、落ち着いて。あの金色の管、明らかに淳を吸収出来てない。派手なスキルは淳にダメージを与えてしまうわ」
彩佳が両腕に構えた斧に黒いオーラを纏わせるのを見て、私はその肩を軽く掴んだ。
カッとなりやすいのは彩佳の悪い癖ね。
「た、確かに」
「うん。それに見て、淳はあの中でもぞもぞって動いて進んでる。多分だけどあのまま根本まで進んで金色の管の本体を叩くつもりよ。金色のモンスターは外側が異常に硬いから内部から攻撃するっていう判断。なら私達もそれに合わせて攻撃、淳が内部から出てきた時を狙われないように準備を」
「準備……。じゃあ先回りしないと。えっと管はこの先――」
「ボス階層まで続いてるみたいね。気を引き締めて行くわよ」
「分かってる! そっちこそくよくよしてる暇なんてないないからね!」
私と彩佳は金色の管の中を移動する淳を追い抜いて、それを伝いながら走る。
予想通り金色の管は階段を通ってボス階層まで続いている。
元々のボスである『ボーパルバニー』からすげ変わってこの金色の管のモンスターが生まれるようになった、或いは他の階層から来た金色の管のモンスターが乗っ取った……どちらにしろ私達には聞き覚えのない異常事態。
昨日は飯村君の忠告通り拓海を手伝いに行くんじゃなくて、いろんな所で嘘をついて探索者達がダンジョンに侵入しないように奔走してたけど……。直ぐに助けに行った方が良かったのかもしれな――
「ぺぽっ!」
「何!? なんでこんなところにモンスターが!? しかもこの数って……」
「金色のスライム……。そいつかなり硬いから気を付けて!」
「言われなくても……『デススタンプ』」
彩佳の持つ斧に再び黒いオーラが纏わりドクロの紋様が浮かび上がる。
禍々しい雰囲気を醸し出す斧は金色スライムを真っ二つに引き裂くと、それに纏わりついていた黒いオーラはボス階層の入り口を潜っていく。
「手応えがあると思ったらそういう事ね……」
「多過ぎでしょ、これ……」
黒いオーラを追い掛けるようにボス階層に踏み込むと、そこには3段くらいで地面に敷き詰められた金色スライム達、そしてそれを従えるかのようなモンスターが中央に1匹。
形こそ人に見えるけど、その光沢と揺れる表面からスライムだという事が分かる。
特徴的なのは腕で、その数は全部で4本有り、その1本はこの部屋の入り口に伸びている。
そうあれが――
「あの腕が金色の管だったってわけね……。ま、本体は淳が来てから攻撃するとして、まずは周りを蹴散らさないと……『デススタンプ 』」
彩佳は事前の話通り、淳が内部から攻撃する時とした後の準備を整え始める。
『デススタンプ』は低確率小範囲即死スキルで、モンスターに攻撃をヒットさせると即死効果を持った黒いオーラが飛散していくスキル。
普段はここまでの数を相手にする事がなく、即死効果も試行回数が少なくて発動し辛い環境だった。
その所為でこのスキルにあんまり強いイメージはなかったんだけど……
「ぺぽっ!」
「あはははっ! これだけ数がいると結構発動してくれるもんなんだ!」
彩佳がはしゃぐのも仕方ない。
だって数え切れない程のスライム達の約1割りが即死効果で簡単に死んでいくのだから。
見てるだけの私ですら爽快感が凄いわ。
「私も混ざらせて貰うわね『空間爆発【大】』」
――ドンッ
爆発箇所を指定、威力を設定。
この2つの工程を踏むだけで私は見える範囲全てで爆発を起こせる。
威力【大】は100階層のボスにも致命傷を与えられる程。
今度は問題なく一撃で金色スライム達を爆散させれた。
ただ範囲を狭めたからまだ数十匹は残ってるみたいだけど……煙でよく見えないわね。
「ふぅ。魔力の温存を測る淳の行動を考えて【大】を発動させたけど、【極大】でボスごと吹っ飛ばせたら最高に気持ち良かったかも」
「そんな事言って相変わらずとんでもない威力……。もしかしてボスも今ので吹っ飛んだんじゃない?」
「そんなに弱いボスじゃないわよ。でも、そこそこダメージはあると思――」
「ベボ」
煙が晴れると中央の人型スライムが軽く咳き込む様子が見れた。
傷はない。怯みも。こいつ、私が思ってる以上に硬い?
「朱音! 淳がっ、淳がヤバい!」
額から汗が流れるのを感じると彩佳の鬼気迫った叫びがボス階層全体に響いたのだった。
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