第22話 ゴクリ
「援護するわ! 2人とも下がっ――」
「駄目だ! 朱音のスキルは魔力を食い過ぎる。こんなところで使ってたら先の階層で潰されるぞ!」
「完全に舐めてた。こんなの飯村がどうにか出来る敵じゃないよ、朱音。あんまり言いたくなかったけど、最悪の場合……」
淳にスキルの発動を止められると、今度は彩佳が気まずそうに言葉を吐いた。
信じたくないけど、このモンスターの強さを見てしまうと私ですらどうしても……。
「よっし! 道が開けた! 他の奴らを相手にしてたらこっちの体力が削られる! 無視して次の階層に行くぞ!」
「了解! ほら、朱音も」
「でもまだ飯村君が――」
先を急ごうとする2人に提案を持ちかけようとすると、背後にダースウルフェンが現れた。
なんでこんなタイミングで……
「これでバフまで掛けられたらたまったもんじゃないぞ! 2人とも急げ!」
「了解!」
「……分かった」
ダースウルフェンの出現が確認されたら逃げるのが鉄則。
私達は飯村君の安否を確認できないまま、次の階層へと急ぐ。
「あれ?」
「どうしたの朱音?」
「今、何か光らなかった?」
「私には見えなかったけど……。多分その溜まった涙の所為じゃない? 朱音、悲しいのは分かるけど飯村探しをしてる余裕はないよ。それにまだ死んだって決まったわけでもないし、仕事に集中して!」
「……ごめんなさい」
彩佳に諭されて私は服の端で目元を拭った。
濡れて少し色が濃くなったそれを見て、ようやく自分が泣いていた事に気付く。
前方に見えた光はきっと勘違い。トップギルドの代表がこんな体たらくではいけないと気付かされ、私は1度飯村君の事を忘れ、3階層を駆け抜けるのだった。
◇
「ふぅ、やっと9階層か」
「まさかこんなに消耗するなんて思ってもみなかったよ。私、コボルトの階層が短いのがこんなに嬉しく思えたの初めて」
少しだけ疲れた様子の淳と彩佳。
極力戦闘をしないようにコボルトの居る階層を抜けて、アルミラージの居る階層に降りてきた私達はようやくダンジョンの異変の原因を探る為に各階層の散策を開始。
しかしそれらしいものは見つからず、ずるずると9階層まで来た私達は次のボス階層を意識して体力を回復させるように歩く。
「うん。金色でもアルミラージはコボルトより柔らかくて楽よね。ただ、普通の探索者じゃなかなか対応出来ないかも」
「ああ。硬いだけじゃなくて蘇生能力も持ってるし……こんなのを探索初心者が相手をするなんて自殺しに行くのも同然だぞ」
「こら淳! あ、あの今のは別に飯村の事を指して言ったわけじゃなくて――」
「彩佳、お前自分の方が墓穴掘ってるぞ」
あまり気にしないようにしているけど、表情とかその端々から私の気持ちが漏れてしまってるのか、2人は飯村君の事を連想させない様に気を使ってくれる。
2人共頭は良くないけど、拓海に比べるとかなり優しいのよね。
「2人共大丈夫。今は仕事中。私情は程々にしないと、だもんね」
江崎さんから飯村君に依頼をしたのは例外で、私達にはまだ正式に依頼は来ていない。
というのも私達のギルド『ファースト』にはいつもお偉い人達から依頼が来ていて、窓口の部長ですら勝手に『ファースト』に依頼をするのは心証が悪くなってしまうらしい。
とはいえ、この非常事態に私達『ファースト』が依頼云々で動かなければメディアに何て言われるか……。
表向きでは自主的な探索ではあるものの、実質はギルド『ファースト』の為の仕事だ。
「へへ、それでこそ俺達の代表だ――」
――ヒュン
淳が私の言葉に笑顔を溢した瞬間だった。
その背後に金色の管が現れ、その口を大きく開き……そして
――ゴク
喉を鳴らす様な音を立てながら淳の体を飲み込んで、そそくさとその場から去っていこうとしたのだ。
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