第24話 声

「くそっ。こいつ想像以上に硬くて……中からでもこんだけしか……。本体に届く前に試して良かったけど……そっちからなんとかならないか?」


 彩佳の声に反応して金色の管を見ると、本体から少し離れた地点で淳が金色の管が薄くなっている所から顔を透かせてこちら側に声を発していた。

 金色の管の中にいるっていうのにその顔はさっき見た時と比べて明らかにやつれ、外からでも確認出来るレベル。


 彩佳がヤバいって言ったのは状況もそうだけど、そのやつれた顔が殆んどだと思う。

 だってあんな弱った淳なんて初めてモンスターと戦った後くらいだから。


「ん、ぎぎ……。こんなに薄いのに破れない……。淳、あんたそれどうやったの?」

「両端を閉じてこの箇所だけ膨らませた。途中までは破裂させる事が出来そうだったんだけど、どうしても力が抜けて――」

「淳っ!」


 ずっと自分のペースで進んでいた淳が一気に本体に吸い込まれ始めた。

 もしかしてあの人型スライムは安全に吸収する為に 淳がこうして弱るのを待っていたのかもしれない。


「彩佳退いてっ! もう魔力の温存とか言ってられない! 後で怒らないでよ、淳!……空間爆発【極大】』」


 金の管の上を指定して起きた爆発は轟音と共に閃光を放ち、爆炎を巻き上げた。


 彩佳は距離をとっていたにも関わらず爆風で飛ばされ、近くにいた金色スライム達は巻き込まれて呆気なく死んでいく。

 この爆発はあくまで空間を対象にするから仲間への当たり判定を消すのは不可能。

 生半可な実力の探索者なら即死でもおかしくない攻撃だけど……


「っかはぁ! こんなに美味かったのか、外の空気ってやつは!」

「淳、あんた本当に油断し過ぎ! その顔、もう死にかけじゃん! ……馬鹿」


 淳はステータスポイントを防御力、魔法防御力に振っている魔法剣士。

 タンクの役割を出来るだけのステータスだけあって、私の爆発を受けてもちょろっと火傷箇所を作るだけ。


「でもそんな淳がこんなになるなんて……」

「こいつ管に入れた奴のHPと魔力、それに経験値も吸収するぞ。ほらこれ見てくれ。段々力が下がってく感じがしたからまさかって思ったけど、マジだったぜ」


 淳がステータスを表示して見せてくれると、確かに前に見たレベルよりも下がっていた。

 経験値を吸収するモンスターね……。ん?


「ちょっと待って! ていう事は大量の経験値を吸った本体は――」

「まっ、またかよ!」

「きゃっ!」


 爆発で飛び散った金色の管の肉片がうねうねと動き私達の身体に纏わりついた。


「くっ! 離れてっ――」

「くく……べぼ」


 それを剥がそうと空間爆発を発動しようとすると、いつの間にか目の前に人型のスライムが立っていた。

 さっきよりも頭身が高くなっていて、手は指まではっきりと形成、顔は目と口、髪の毛や眉毛の様なものまでついている。

 恐らく経験値を得た事で進化したのだろう。

 より人間に近い姿になった金色スライムは私の口を手で塞ぐと、視線を別に移す。


 その視線の先には、丁度今湧き出した『ボーパルバニー』が1匹。

 金色の人型スライムはそれに指を差すと、新たに形成させた管を『ボーパルバニー』の元まで這わせて、飲み込ませた。


 淳が飲み込まれた時とは違って飲み込まれた『ボーパルバニー』はごきゅごきゅと音を立てながらあっという間に吸収された。

 進化した事で吸収する力が強まったのだろう。

 わざわざこれを見せつけたっていう事で私達をビビらせたいのかな?


 でも私のスキルは別に空間爆発だけじゃな――


「朱、音……」

「彩佳っ!」


 肉片に身体を包まれ、斧も落としてしまった彩佳。

 金色の人型スライムは指を動かしてそれを操作、彩佳の包まれたそれはごきゅごきゅと小さく音を立てる。


「ベボ」


 まるで『何かすれば仲間を吸収する』と言いたげに金色の人型スライムは目を合わせてきた。

 まさかモンスターが人質をとるなんて……


「彩佳っ! くそっ! 『太陽千斬』――。ああ゛ぁぁぁっ!」


 淳が彩佳を助ける為に攻撃を放とうとすると、今度は淳の腕に張り付いた金色の肉片から大きくごきゅっと音がなった。

 すると淳の腕は急激に細くなり、痛みを伴うのか叫び声が……。


 アダマンタイトクラスが3人揃ってこの様。

 油断したとはいえ情けなさ過ぎる。

 やり返したい、けど……ここは大人しくするしか――


「魔力20消費……」

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る